「悪魔の化身」が神の道に

元将軍、暴力根絶訴える  「2万人殺害」許すべきか

 「おれが神様を見たのはここさ」。男が指さしたのは、ありふれた路地の一角だった。大西洋からの湿っぽい熱風が吹く西アフリカ・リベリアの首都モンロビア。男の名前はジョシュア・ミルトン・ブラヒ(37)。リベリアの内戦で若い兵士らを引き連れ、約2万人を殺したとされる人物だ。
 1996年のある日、戦闘中のジョシュアは神に出会ったという。
 「神様の顔は太陽のようにまぶしく、雪のように白い衣装を着ていた。『なぜ人を殺しているのか』と問い掛けられた」
 その日以来、すべてが変わった。残酷な殺し屋として恐れられていた男は戦いをやめ、牧師の道へと進んだ。
 自らの罪への「許し」を請うかのようにジョシュアは首都の貧民街に入り、しわがれた声で暴力の悲惨さと根絶を訴える。その説教はなぜか、人の心を激しく揺さぶる。
 「人は変わる」とジョシュアは言う。彼の過去を、われわれは許すべきなのだろうか。

真っ裸で前線に

 眼下に海が見えた。モンロビアの高台にあるキャピトルヒル地区。1990年代前半、ジョシュアが支配し、戦闘の拠点としていた場所だ。
 「やつは強かった。たくさんの敵を殺した」。当時のジョシュアを知る住民のトソ・コリ(36)が言う。
 2003年まで約14年間、リベリアでは断続的に内戦が続いた。ジョシュアが所属していたリベリア民主統一解放戦線(ULIMO)は、チャールズ・テーラー率いるリベリア国民愛国戦線(NPFL)と戦闘を繰り返していた。
 ジョシュアはブーツ以外は下着も付けず、真っ裸で銃を持ち、前線に立った。その異様な姿から「裸の将軍」とも呼ばれた。「当時、自分は魔力を備えていた。たとえ敵に攻撃されても、敵の前から自在に姿を消すことができた」。信じがたいが、本人は真剣に言う。「だから弾は当たらなかった」
 トソが身の毛がよだつような話を打ち明けた。
 「殺した相手の耳を切り取って、たくさんの耳をひもでつないで首からぶら下げていた。恐ろしい男だった」。戦いの前、幼い子どもを殺して心臓を食べる「儀式」を行っていたとも。
 「戦争犯罪人」。ジョシュアに肉親を殺された者たちの憎悪はいまでもうずまくが、弟のアーネスト(26)は当時の兄の「狂気」をあっさりと弁護する。「兄が過去にやったこと? あれは兄でなく、乗り移っていた悪魔がやったことなんだ」

若者のあこがれに

 バラックが広がる首都近郊レッドライト地区。昼間からヘロインのにおいが漂う。若者らが木陰でヘロインを吸いながら、とろけたような表情を浮かべていた。リベリア随一の「犯罪者の巣窟(そうくつ)」といわれるこの地区で、ジョシュアは若者らに説教をしていた。
 「おれも11歳で殺しをおぼえた」。改心した自らの体験をゆっくりと、顔の筋肉を目いっぱい使いながら話す。語り口は穏やかで温かい。
 少女が天を仰ぐかのように、あこがれのまなざしで彼を見つめる。少年が体をかがめ、汚れた布で目頭を押さえる。集まった若者たちの様子がみるみると変わった。
 「ポケットから凶器を出しなさい」。ジョシュアが全員に語り掛けると、次々とナイフやかみそりが出てきた。
 「一昨年、住んでいた貧困地区にジョシュアがやって来た。感動的な説教だったよ」。ギャングだったサーティー(42)は彼と出会ってギャングから足を洗い、ジョシュアの活動を助けている。「おれも数えきれないほどの人を殺した。でも、今は必死でジョシュアの後ろを追っているんだ」
 ジョシュアを起訴すべきか恩赦にすべきか。リベリアの「真実と和解委員会」は「国際法に照らして」検討中だ。
 昼下がり、教会にジョシュアの姿があった。集まった数百人の信者に訴え掛ける。「起訴は怖くない。この世で刑罰を受けることになっても、神様は必ず許してくれる」。かつての「悪魔の化身」が神を説く。割れるような拍手がわいた。
 2009年末、真実と和解委員会はジョシュアを起訴すべきではないとの最終報告書を発表した。理由について、委員会はこう付け加えた。「委員会の手続きに協力的かつ犯した罪を認め、正直に語った。そして、被害者の遺族に謝罪の言葉を口にした」

編集後記

 刑罰より平和継続願う 内戦の経験から復讐恐れ

 内戦終結から5年以上たつが、リベリアの首都モンロビア中心部は今も廃虚のような建物が目立つ。路地裏に汚れたマットレスが一つ。内戦で両腕を失ったジョンソン・ドー(20)は10年近く、そこに友人らと寝泊まりしながら暮らしている。
 1990年代、まだ幼い子どもだったジョンソンが両親と町を歩いていると、ジョシュアの敵だったリベリア国民愛国戦線(NPFL)の兵士が突然両親を射殺、自身も刀で両腕を切断された。「以来、こうやって物ごいをしながら何とか生き延びてきた」
 モンロビアでは、至る所でジョンソンのような手足を失った物ごいの若者に出くわす。ジョシュアの「犯罪」について聞くと、ほとんどの者が「戦争だったから仕方なかった」「彼を許すべきだ」と言った。
 ふと、アフリカ東部ウガンダで出会った内戦被害者のことを思った。子どもさえも恐怖で支配して兵士にした反政府勢力「神の抵抗軍」(LRA)のコニー指導者について、元子ども兵士の一人は「平和さえ来れば、おれはコニーを許す」と言った。
 「長い内戦を経験した僕らは恐れているんだ。内戦終結後に罰を加えると、その連中がいつか再び復讐(ふくしゅう)に現れ、今の平和を壊すんじゃないかと」。自らも内戦でおじを失ったリベリアの地元記者アローシャス(29)が静かにつぶやいた。(文 田中寛、写真 中野智明、敬称略)=2009年3月11日 配信、一部をこのほど追加取材

 「地球村」の人びとは今、何を喜び、なにゆえに悲しみ、日々の暮らしを送っているか。「@LOVE」では世界各地のラブストーリーを紹介。このほか「@コリア」「@チャイナ」「@アメリカ」「@その他の地域」と五週を一クールとするこの企画では、地域ごとに主人公やテーマを立て、「今を生きる」人間模様を描く。

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リベリアの首都モンロビアでも特に治安が悪いとされる地区の路上で、突然説教を始めたジョシュア。「悔い改める」と涙を流して近寄った男に、祈りをささげた。

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