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 「一緒に乗り越える」   生きづらさ抱える人に伴走

 司法と福祉がタッグ      支援のため出向く 

デリバリーヘルスの「待機部屋」で女性(手前)の相談に乗る浦崎寛泰。「風俗の仕事を辞めさせるのが目的ではない。ありのままを受け止める」=東京都豊島区(撮影・市川亨)

デリバリーヘルスの「待機部屋」で女性(手前)の相談に乗る浦崎寛泰。「風俗の仕事を辞めさせるのが目的ではない。ありのままを受け止める」=東京都豊島区(撮影・市川亨)

 東京・池袋駅近くにあるマンションの一室に女性数人が集まっている。部屋には冷蔵庫とテレビ、ソファ、小さなテーブルがあるぐらい。整理棚の引き出しには源氏名を書いたラベルが貼ってある。デリバリーヘルス(派遣型性風俗店)で働く女性たちが客からの電話を待つ「待機部屋」だ。
 「今、不安なことって、どんなことがありますか」。弁護士の浦崎寛泰(うらざき・ひろやす)(34)がテーブル越しに女性に話し掛ける。もう一つの部屋では社会福祉士の及川博文(おいかわ・ひろふみ)(28)が、別の女性の話に耳を傾けていた。


 ▽口コミ情報

 女性の年齢層の高さを売りにする“熟女専門”など二つのデリヘルで働く女性向けに開いた、「風(ふう)テラス」と呼ばれる無料の法律・生活相談会だ。会を運営する知り合いの団体から頼まれ、2人は月に1度、一緒にここへ通う。
 風俗で働く女性は「仕事は何を?」と聞かれるのを恐れて、困ったことがあっても公的機関へ相談に行くのはためらう。その結果、問題を抱え込んでしまい、トラブルが複合的になりやすい。
 「法律と福祉の両方の視点で話を聞くことで、別々にアプローチするよりも有効な手が打てる。本人も、何度も違う場所へ行かなくて済みます」と浦崎が説明する。
 この日に話を聞いた50代の女性はうつ病を長く患い、息子が引きこもりに。借金も約60万円あるという。「自分で返したい」と話す女性に浦崎も「いろいろ考えると、自己破産はあまり適当ではないですね」と応じた。
 その上で、経済的に少しでも楽になるよう、税金や公共料金が割引される障害者手帳の申請手続きを進めることにした。法律と福祉の専門家がタッグを組んでいるからこそ、できる対応だ。
 相談会の後、2人は他の支援者も交えて対応策を話し合う。「そこの地域だったら、あの施設の人が頼りになる」といった福祉の現場で動く及川らの人脈や口コミ情報が生かされる場でもある。

         支援者への接見を終えた社会福祉士の及川博文=東京都立川市の立川拘置所前(撮影・萩原達也)

 支援者への接見を終えた社会福祉士の及川博文=東京都立川市の立川拘置所前(撮影・萩原達也)

 ▽共通の認識

 福祉の役割を重視する浦崎だが、もともとの関心は離島住民やホームレスら司法へのアクセスが難しい人への弁護活動にあった。実際、弁護士登録2年目で長崎県の壱岐島に赴任。そこで忘れられない事件を担当する。
 発達障害の子どもを持つ家庭の心中事件。子どものトラブルで母親はうつ病になり、生活苦から父親の借金が膨らんだ結果の悲劇だった。
 「もっと前に何かできなかったのか」。自問自答した。「司法だけでは限界がある。困っている人を福祉につなぐ仕組みをつくれないか」
 一方の及川は、法学部を志していた高校3年の時に父親が急死する。父の療養中に思い至った。「医療は病気が治ったら、司法は刑の執行をしたら、その後の面倒は見てくれない。それができるのは福祉だ」。進路を福祉専門の大学に変えた。
 経歴は異なるが「司法と福祉の連携が不可欠」という共通の認識を持っていた2人。3年前、ある勉強会で出会って意気投合する。「一緒にやれば相乗効果が生まれる」。今では東京都内の雑居ビルの同じ部屋に、それぞれ事務所を置く仲だ。

 ▽人脈を活用

 2人の活動は風テラスにとどまらない。知的障害や発達障害がありながら福祉の網からこぼれ、万引や無銭飲食などの罪を犯してしまった「触法障害者」への支援だ。
 2015年に一般社団法人「東京エリア・トラブルシューター・ネットワーク」を設立。2人を中心に弁護士や福祉職員のほか医師や教員、自治体職員が加わり垣根を越えた協力の輪を広げる。
 及川は今年の9月下旬、東京都立川市にある立川拘置所を訪れた。接見室のガラス越しに男性と向き合うと、ペンで紙に「①生活保護の申請②住居の確保③…」と書いて見せる。
 強姦(ごうかん)未遂罪などで起訴された30代の被告。家庭環境や成育歴に問題があって、知的障害も疑われた。ネットワークに加わる弁護士が裁判を担当することになり、及川に支援を依頼してきたのだ。
 執行猶予の判決が得られた場合、家をどこに構え、どう生計を立てるのか。手順をわざわざ紙に書いたのは、知的障害があっても、こうした配慮一つで理解しやすくなるからだ。及川の支援計画が考慮されたこともあって、11月に下された判決には執行猶予が付いた。
 「彼が社会に定着していくには、山がいくつか出てくるはず」と及川。それを乗り越えるためにも、浦崎と培った人脈とノウハウを活用する。
 「今ある制度が届かず、困っている人はたくさんいます。相談に来るのを待つのではなく、僕らの方からどんどん出向いていきたい」。とつとつと話す浦崎の横で、及川がうなずきながら柔和な笑顔を見せた。生きづらさを抱える人たちに、これからも伴走する決意だ。(敬称略、文・市川亨、写真・萩原達也)

◎揺るぎない信念を持つ人 

 浦崎寛泰(うらざき・ひろやす)と及川博文(おいかわ・ひろふみ)のコンビは、困っている人から必要とされれば、休みの日でも足を運ぶ。浦崎を突き動かすのは「離島であれ風俗の待機部屋であれ、公正なルールに沿った解決策を得られる権利は、誰もが保障されるべきだ」という揺るぎない信念だ。
 2人は決して相談者を頭ごなしに否定したり、説教したりしない。「私たち支援者側の都合や理屈で話をしても、本人が置き去りになってしまうだけですから」。及川のこの言葉で、真の意味で「人を支える」ことの難しさを考えさせられた。
 非常に根気のいる仕事だが、公的な報酬は乏しい。家族や地域の支え合う力が弱まって「無縁社会」「子どもの貧困」など新たな社会問題が次々と現れる中、彼らの働きや専門性は、もっと評価されるべきだ。(敬称略)