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【第21回 タンザニア】ヘタウマで世界魅了 おかしく不思議な動物たち 

工房でティンガティンガの娘マルティナらと集う長老格アブダル・アモンデ・ムクーラ(中央右)。互いの技を盗みながら笑いの中で作業を進める=ダルエスサラーム(撮影・中野智明 共同)工房でティンガティンガの娘マルティナらと集う長老格アブダル・アモンデ・ムクーラ(中央右)。互いの技を盗みながら笑いの中で作業を進める=ダルエスサラーム(撮影・中野智明 共同)

 ダチョウが首をぐいとねじ曲げ、人間のように足を踏みしめている。ヒョウやカモシカが、歩みを止めて、じっとこちらを見ている。どの絵も動物の不思議な目に、引き込まれそうになる。

 極端なデフォルメ、どこか滑稽、幼児が描いたような「ヘタウマ」の画風だ。現代アフリカンアートを代表する画家エドワルド・サイディ・ティンガティンガは、大草原の鳥獣や人々の生活を、イメージのおもむくままに描いた。

 ▽絵に物語

 タンザニアの中核都市ダルエスサラーム。インド洋に面したオイスターベイ地区に、ティンガティンガ・アート協同組合の工房がある。45年前に死去したティンガティンガの作風を慕う若者たちが、1990年に組合を設立した。

 工房に一歩入ると、強烈な原色に目を奪われる。びっしりと並んだ作業台で、十数人の画家が肩を寄せ合い、作品に取り組んでいた。仲間の筆遣いを見て学び、笑い話に興じながら創作のヒントを探る。

 孫弟子のアブダル・アモンデ・ムクーラ(62)が工房の長老格だ。「ティンガティンガはスケッチをせず、イマジネーションで描いた。絵の中に物語がある」と言う。

 ムクーラは92年に初来日し、水戸芸術館で制作を公開した。呪術や精神世界、タンザニアの暮らしを描いた大作だ。「野生の動物は接し方で優しくも凶暴にもなる。人間がきちんとしていれば、ライオンだって危害を加えない。動物にだって表情はあるんだよ」。以来、十数回にわたって日本各地で展覧会や制作実演に取り組んできた。

 ゾウとカメの絵が得意だ。「ゾウとカメは友達。目が笑っているように見える。ゆったりと生活しているから、長生きする。人間はストレスがあるから、なかなか長生きできない」

ティンガティンガの作品「ダチョウ」(多摩美術大学美術館所蔵・提供)

 ▽都市のアート

 ティンガティンガはタンザニア南部で生まれた。ダルエスサラームの英国人宅で庭仕事をしていたが、雇用主が帰国して失職。家族を養うために絵筆をとった。

 絵の素養は小学校で習った程度。建材の板にエナメル塗料で描き、外国人が買い物に来るスーパーマーケットの前で売った。素朴さに「味がある」と評判が立ち、欧米人が買いあさった。

 タンザニア連合共和国の成立は64年。ティンガティンガは、建国の熱気と、ダルエスサラームの都市文化の息吹を吸って、欧米とは異なるポップ・アートを創造した。

 海外でも名を知られるようになり、日の出の勢いだった72年5月。弟子と乗った車が盗難車と間違えられ、警官に銃で撃たれて死ぬ。本格的に活動したのはわずか2年ほどだった。

 アフリカ文化研究者として知られる白石顕二(しらいし・けんじ)(2005年死去)は著書で「ティンガティンガは西洋絵画の技法にも知識にも無縁だった。対象をリアルに描かず、デフォルメがある。鳥獣たちには寂寥(せきりょう)感が付きまとう。同時におかしさというか、心をほっとさせる何物かがある」と評した。

自作品を携え、父ティンガティンガの墓参りをするマルティナ。父の作風にこだわる=ダルエスサラーム(撮影・中野智明 共同)

 ▽アフリカの誇り

 ティンガティンガの実の娘、マルティナ(46)も工房の一員だ。「父は私が1歳半で亡くなったから何も覚えていない。工房ではみんなが先生だけれど、私は父の絵が一番だと思う。父のスタイルを守ってゆく」。マルティナが描いた鳥の親子は、鮮烈な色使いと大胆な構図が父譲りだ。

 一方、ムクーラは「最近、画風を変えた」と言う。顧客の要望で、これまではあまり描かなかった動物にも挑む。サファリで人気のゾウ、ライオン、サイ、ヒョウ、バファローの「ビッグ5」を1枚に収めた絵を「アフリカの誇り」と名付けた。

 ムクーラは「古いスタイルに固執してはいけない。価値観は変わる。時代に合ったものを描いていくことも必要だ」と力説する。

 彼の息子ナソーロ(22)は昨秋、コンピューター関係の仕事を辞めて画家を志した。「父を尊敬している。いつか父のようになりたい」。隣の作業台からムクーラの描くゾウをのぞき「僕は本物のゾウを見たことがない」とこっそり明かした。

 アフリカでも野生の動物を知らない若者が増えている。来日したティンガティンガ派の画家は「日本の動物園で初めてアフリカの動物を見た」と漏らしたという。

 工房では、アフリカ最高峰キリマンジャロや、ケニア南部からタンザニア北部に暮らすマサイ人を描いた絵も目に付く。外国人に人気の題材だ。

 若者たちはティンガティンガの強烈な個性に憧れて工房に集った。だが世代を経て独自性と創造力が薄れつつあり「アートとは呼べない、土産物が増えた」との厳しい指摘も一部にある。「アフリカの誇り」はどこに向かうのだろうか。(敬称略、共同通信・原田寛)

日本人に親しみ

 多摩美術大学美術館は一昨年から昨年にかけて「ティンガティンガ・アートの世界」展を開催、白石顕二アフリカコレクションから、ティンガティンガ派の作品約80点を公開した。

 目玉の「ダチョウ」は、ティンガティンガ本人が1970年に描いた。日本で唯一確認されている自筆画だ。

 学芸員の小林宏道(こばやし・ひろみち)(52)は「アフリカの土着性ではなく独自性」に着目する。「コミカルでシリアス、シリアスでコミカル。日本の鳥獣戯画に通じる」。その魅力は「圧倒的な力強さと生命感」だ。異論はないだろう。

 来館者は「日本人に親しみやすい」と展覧会の感想を残した。