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【第17回(コンゴ共和国)】現実から夢の世界へ 「サプール」装う誇り 

ブラザビルで、サプール仲間と集うパッシャンス・ムタラ(中央左)。後方のコンゴ川の対岸は隣国、コンゴ民主共和国の首都キンシャサだ(撮影・中野智明、共同)ブラザビルで、サプール仲間と集うパッシャンス・ムタラ(中央左)。後方のコンゴ川の対岸は隣国、コンゴ民主共和国の首都キンシャサだ(撮影・中野智明、共同)

  空は真っ青に晴れ渡り、強い日差しがじりじりと照りつける。コンゴ共和国の首都ブラザビル。バコンゴ地区の市場は、晴れれば土ぼこりが舞い、雨が降ればぬかるむ。肉や魚を焼く匂いが漂い、野菜や衣服の露店に素足の客が群がる。

 色とりどりの高級服に身を包んだ男たちが、突然現れた。サプールと呼ばれるだて男たちだ。拍手が響き、歓声が上がる。雑然とした市場は、華麗なファッションステージに変わった。

 白いジャケットに空のような青いシャツ。パッシャンス・ムタラ(36)が、手入れの行き届いた革靴で軽やかにステップを刻む。しなやかに躍動する細身の体。誇らしげな表情。粋な柄のネクタイがよく似合う。集まる視線を心から楽しんでいる。

 給与の何カ月分にも相当する高価な服を着て、優雅に振る舞うアーティスト。人々を現実から夢の世界へ連れてゆくエンターテイナー。サプールは「優雅で陽気な一団」を意味する。

 フランスの植民地だった1920年ごろ、フランスから戻った男性の服装が欧州風で話題になったのが起源とも伝わる。

 街を行けば「パリジャン!」と声がかかる。人々は、この国で独特の発展を遂げた文化として愛着を寄せる。サプールの数は現在、ムタラも「見当がつかないほど」増えた。

 ▽ネクタイ100本

 トタン屋根とブロックでできたムタラの簡素な家を尋ねた。「ほんの一部だよ」。彼は服や靴、サングラスなどを次々と取り出した。スーツやジャケットは40着ほど、ネクタイは100本以上。平均月収が数万円相当という生活で、住宅を買えるほどの額をおしゃれにつぎ込んできた。

 小さい時から服が好きだった。家族の1カ月分の生活費を持ち出して、スーツを買ったほどだ。10代で、サプールに会った。気品ある装いに夢中になった。

 週末の夜、ブラザビルのバーにムタラの姿があった。店は女性歌手のショーを楽しむ客でいっぱいだった。ムタラがすっと自分の席を譲ってくれた。隣の席からは、歌手の姿が見えないことに気づいたからだ。普段から陽気だが、さりげない優しさもそなえている。ファッションは「大学教授だった父から、最初に影響を受けた」と言う。他人を気遣う心も父譲りかもしれない。

 多くのサプールは、おしゃれのぜいたくを除けば、質素な生活を送っている。ムタラも衣料品店で働いてきた。仲間はタクシーの運転手だ。決して多くはない給与から服を買う資金を捻出する。

 「サプールにはエレガントな身体と、健全な精神がなければならない」とムタラ。しっかりと現実に根を下ろした生活が、だて男の美しさだけでなく、優しさや強さ、忍耐を育んできた。

 サプールに憧れる近所の少年エノク・アクエテ(右)に服装のアドバイスをするパッシャンス・ムタラ=ブラザビル(撮影・中野智明、共同)

 ▽死の街

 ブラザビルの空港は近代的だ。外国人が利用するホテルがある地区へ舗装道路が延び、噴水や樹木が美しい。貧しい住民も多いが、平穏な生活があるように見える。しかしわずか20年ほど前は「死の街」だった。

 コンゴ共和国では90年代に政情が悪化し、武力衝突が繰り返された。石油利権を巡る対立が背景ともいわれた。ブラザビルは激戦地となり、多くの市民が命を落としたり、避難したりした。家を壊され、「命」ともいえる服を盗まれたサプールもいた。

 ムタラは幼い弟を殺された。「サプールは暴力を嫌う」。多くは語らない。語れない。悲劇への怒り、つらい思い出に、今もじっと耐えているかのようだ。

 サプールには、いくつかのグループがある。ムタラのグループには、彼とは別の地域出身者も。「サプールは争わない」。華やかに装うことは、恐ろしい過去を乗り越え、平和を願う営みでもある。

市場でステップを踏むサプールの男性(右端)に歓声を上げる買い物客ら=ブラザビル(撮影・中野智明、共同)

 ▽国の代表

 ブラザビルはコンゴ川に面する。対岸に見える隣国、コンゴ民主共和国(旧ザイール)の首都キンシャサで2007年、ブラザビルとキンシャサのサプールのコンテストが開催された。

 ムタラのグループは「赤い悪魔」と呼ばれた。サッカーなどのナショナルチームのニックネームだ。国を代表する誇りを感じた。

 サプールは国外のショーに招かれたり、メディアで取り上げられたりして、知名度が国際的に高まっている。出演や撮影に高額の報酬を求める者も。ムタラは「サプールは国の財産。善と悪を区別する方法を、知っていなければならない」と手厳しい。

 そんなムタラに憧れる子どもたちもいる。「サプールになりたい」。近所に住むエノク・アクエテ(12)が夢を語った。サングラス越しに未来のだて男を見つめ、穏やかな笑みを浮かべるムタラ。少年の中に過ぎし日の自分を見つけた。(敬称略、共同通信・岡田隆司)=2017年05月03日

国民性

 ブラザビルでは生地を購入し、服を作ることが一般的だ。「妻子への土産に」と注文した。

 花や動物の柄の生地が、店の壁一面に並ぶ。美しかったり面白かったり。でも出来上がりをなかなかイメージできない。やっと3種類を選び仕立屋へ。妻のワンピースや息子2人のシャツを頼んだ。3日で完成した。

 通りの人々は老若男女を問わず、自分に似合う色や形の服を楽しんでいる。ファッションに気軽に親しむ国民性が、サプール文化の背景にある。

 見まねで注文した服は、息子たちにはぴったりだったが、妻には大き過ぎた。うまくサイズが伝わらなかったようだ。やはり、そんなに簡単ではなかった。