日本の実力 第9部 防災

第2回 火山・地震研究

「多くの方が地球科学の道を進むよう願っています」。東京都内の東大地震研究所で9月、教授らが火山・地震研究の魅力を中高生に語るイベントがあった。地震計の仕組みなどを説明した大木聖子(おおき・さとこ)助教は「研究の最前線や、対象に打ち込む研究者の思いに触れてほしかった」と力を込めた。

学級崩壊

 火山・地震国ニッポン。活火山は108と世界の約1割を占め、「データの蓄積や観測技術は世界トップレベル」(東大名誉教授の藤井敏嗣(ふじい・としつぐ)・火山噴火予知連絡会長)だ。だが近年、研究や観測が「このままではつぶれる」と危惧(きぐ)されている。

 「40人学級」。国内の火山観測に携わる大学研究者の少ない実情を指す言葉だ。公務員削減で

17世紀以降の日本の火山噴火

つぶれる?地道な観測 イタリアは重点投資 

東大地震研究所で海底地震計の説明を受ける中高生=12日、東京都内(共同)

教員ポストも減り、この10年で博士号取得者は半減。「学級崩壊が近い」と嘆く声も出る。

 これに対し、イタリアの「学級」規模は約600人。藤井会長によると、イタリアや米国、フィリピンなどは国立の火山研究機関や観測所があり、国として研究者を養成する点が日本と違う。

 日本の気象庁は火山や地震の専門家が少ない。研究者の献身的な監視、自治体への助言…。火山防災は国立大が支えてきた面が大きい。

 その国立大が危機にあえいでいる。2004年度の法人化以降、国からの運営費交付金は減る一方で、6年ごとに研究目標を設けて実績が評価される。火山観測のようにすぐに成果が出にくい基礎的な研究は予算がさらにつきにくくなった。

異様な静けさ

 大学の厳しい事情を背景に、文部科学省は08年、大学が観測する33火山のうち、活動が盛んとした16火山の観測を強化する一方、残りの17火山は各大学の裁量に任せることにした。

 1979年に有史以来初めて噴火した後、91年、07年と小規模な噴火が続いた長野、岐阜県境の御嶽山は強化対象から外れたが、名古屋大が観測を続ける。活動はおしまいなのか、大規模噴火につながるのか―。見極めができないからだ。

 同大の木股文昭(きまた・ふみあき)教授は「判断するには地道な観測が不可欠。すぐに成果は出ないが、続けていれば大噴火でも住民の命は守れる」と強調する。

 日本は火山灰などの噴出量が10億立方メートルを超える「大規模」な噴火は1914年の桜島以

降ない。3億立方メートルを超す「中規模」噴火も29年の北海道駒ケ岳が最後。90年代に火砕流が頻発した長崎県の雲仙・普賢岳は5年かけて2億立方メートルで、火山学では「小規模」だ。

 「この80年がたまたま異様に静かだった。17世紀以降の頻度からすれば21世紀は中・大規模の噴火が5~6回あると覚悟すべきだ」。藤井会長は警戒を促す。

特殊な先進国

 短期間で成果を求める風潮に、地震の研究者も同様の危機感を抱く。

 95年の阪神大震災を受けて地震計などの観測網が整備され、研究環境は飛躍的に改善した。地震が起きていないのに、プレートと呼ばれる岩盤がゆっくり滑るような現象など、日本が誇れる発見が相次いだ。

 「継続的な観測があったからこそ。この分野は10年以上続けて初めて分かることも多い」と東大地震研究所の平田直(ひらた・なおし)所長。ただ、文科省などから委託される研究プロジェクトの期間は3年程度が多い。「とにかく成果を出して」。こんな注文が増えたと地震研究者の多くが感じている。

 「この10年の台頭が著しい」。藤井会長はイタリアの火山研究に目を見張る。「80年代から基礎研究に毎年10億円程度出し、成果が今出ている」。日本の大学への支出は毎年6千万円程度だ。

 そして警鐘を鳴らした。「国のどこでも地震や火山噴火の恐れがある先進国は日本だけ。特殊事情を踏まえた投資をしないのはおかしい」(所沢新一郎共同通信記者)

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