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「祈りよ力に」(15) 「マルタ」

神からの贈り物と信じて カトリックの同性愛者 根強い偏見にも信仰捨てず

パートナーのクリスチャン(右)と手をつなぎ、見つめ合うクレイトン。2人は2009年8月から同居を始め、最初のアパートは半年契約で借りたが、いつのまにか5年近く一緒に住んでいる=マルタ・バレッタ近郊(撮影・沢田博之、共同)

パートナーのクリスチャン(右)と手をつなぎ、見つめ合うクレイトン。2人は2009年8月から同居を始め、最初のアパートは半年契約で借りたが、いつのまにか5年近く一緒に住んでいる=マルタ・バレッタ近郊(撮影・沢田博之、共同)

 銀髪の中年男性が聖書の詩編の一節をかみしめるように朗読した。「恵み深い主に感謝せよ。慈しみはとこしえに」

 コーディネーターのクリストファーが参加者に感想を尋ねると、一人の男性が静かに答えた。
 「神から拒絶されていると考えている同性愛者たちがいるなら、それは間違いだ。この一節を読めば、神は愛だということが分かる」

 地中海に浮かぶ島国マルタの首都バレッタ。時折激しく雨が降る夜のマルタ大学の一室で、カトリックを信仰する同性愛者らによる組織「ドラクマ」の定例会が開かれていた。この日はゲイやレズビアンら約150人のメンバーのうち9人が集まっていた。

 聖書を読み、日ごろの悩み、思い思いの言葉を口にする。会合は最後に、全員で神に祈りをささげて終わった。

 高台に古い教会や建物がひしめき、かつて聖ヨハネ(マルタ)騎士団の領地であったことで知られるマルタ。人口約43万人の約9割がカトリック教徒の保守的な社会だ。カトリックが禁じる離婚が認められるようになったのは、バチカンを除く欧州諸国でもっとも遅い2011年だった。

 35歳のクリストファーが言う。「同性愛への偏見がマルタでは根強くある。しかし、同性愛は神が与えた美しい贈り物。それを理解するための空間を提供するのがドラクマだ。私たちは同性愛者であるがゆえに、少数派や社会の脇に押しやられている人々の気持ちが分かるようになった」

 ▽告白

 ドラクマに所属する28歳のクレイトンは、12~16歳のころが一番つらかったと話す。「男子に魅力を感じ始め、カトリック教徒でありながらゲイであるという葛藤に苦しんだ。状況を理解するために必死に祈り、多くの本を読んだ」

 18歳の時に、まず父に自分がゲイであることを打ち明けた。仲の良かった母に言えば、感情的になると考えたからだ。父を通じて事実を知った母は、ほとんど話し掛けてくれなくなった。

 しかし、息子がゲイであることに憤っていたのではなかった。1週間後「あなたが直接打ち明けてくれなかったのが悲しかったの」と母。両親や姉は、すぐにクレイトンがゲイである事実を受け止めてくれた。

 パートナーで27歳のクリスチャンと出会ったのは06年夏、ゲイのデートサイトを通じてだった。男女と違い、見かけからお互いがすぐに「仲間」と分かりにくい同性愛者にとって、ネットの普及は出会いの機会を飛躍的に増やしている。

 チャットの会話でお互いに引かれるものがあったが、すぐに関係は発展せず、やがてクレイトンは別の男性と交際するようになった。

 その男性と別れてしばらくした08年6月、ゲイのパーティーでクリスチャンを見かけた。胸が高鳴り「ここで話しかけないと一生後悔する」と思った。意気投合した2人は翌月、最初のキスを交わした。

        マルタの首都バレッタのカトリック教会で行われたミサ。島内にはいたるところに教会があり、熱心な信者たちが祈りを捧げている(撮影・沢田博之、共同)

マルタの首都バレッタのカトリック教会で行われたミサ。島内にはいたるところに教会があり、熱心な信者たちが祈りを捧げている(撮影・沢田博之、共同)

 ▽妨害

 クリスチャンは19歳のとき、母にゲイだと告白した。母に勧められて訪ねた精神分析医は突然聖書を取り出し「同性愛者には悪魔が取り付いている。悪魔払いが必要だ」と説教し始めた。

 年配のゲイたちは、もっとつらい経験もしている。57歳の男性は、1970年代後半に精神科医から「まともになるために」と抗うつ剤を一日20錠も処方されたという。

 2013年3月に就任したローマ法王フランシスコは「私は神を探し求めている同性愛者を裁くことはできない」と発言。法王が同性愛を認めるのではないかとの期待も一部で高まった。しかし、法王の融和的な姿勢は現場の聖職者にまでは浸透していないようだ。

 マルタ国会は4月、同性カップルに事実上の婚姻を認め、男女のカップルと同様の権利を保障する法案を通過させた。しかし地元カトリック教会の補佐司教は、ゲイのカップルに養子縁組を認める法案の条項を特に問題視し「カトリック教徒の国会議員は賛成票を投じるべきではない」とあからさまな妨害キャンペーンを張った。

 同性愛カップルの中には、かつて異性との間にできた子どもを育てているケースもある。このため社会対話・消費者・市民の自由担当相ヘレナ・ダッリは、法的な保護を与える必要があると強調する。「教会にはその教義を主張する権利があるとしても、子どもの利益は教会の利益に優先されるべきだ」

 クレイトンもクリスチャンも「教会が同性愛に関する基本的な教義を変えない限り、いくら人柄の良さそうな法王になっても良い方向へは変わらない」と言う。カトリック教徒を公言するが、教会のミサには行かない。
 法案通過を受けて、2人は結婚する意向だ。「法制化でマルタの社会が劇的に変化することはないと思う。でも、法をきっかけに人々の考え方が少しずつでも変わってほしい」。2人の切なる願いだ。(敬称略、共同通信前ローマ支局長 小西大輔)=2014年04月18日

メモ

聖書と同性愛

 聖書には同性愛は罪と書かれているが、旧約聖書のダビデとヨナタンなど、同性でありながら非常に親密な関係を築いた人物も登場するため聖書は同性愛を否定していないと解釈する人たちもいる。カトリック教会のカテキズム(教理問答集)は、同性愛は決して認められないとしつつ「同性愛的な傾向を持つ人々を軽蔑することなく、同情と思いやりの心を持って迎え入れ、不当に差別してはならない」と説く。

 聖書には奴隷の存在を前提とした言葉もあるが、バチカンは19世紀から奴隷制を非難するようになった。クレイトンは「50年たてばゲイへの教会の見方も変わるかもしれない」と期待はしている。