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日めくり

こんな所になぜアメリカの名作が

須崎館長 須崎館長

 埼玉県朝霞市の「丸沼芸術の森」で、アメリカ現代美術の巨匠、アンドリュー・ワイエス(1917~2009)の展覧会が開かれている。大分昔に美術担当記者をしていたことがあるが、実はこの場所については知らなかった。どんな施設? なぜこんな所にアメリカの名作が? という好奇心に駆られ展覧会を見に行った。

 東武東上線朝霞台駅から、住宅や畑、倉庫などの間を車で縫って行くと、10分ほどで丸沼芸術の森に着いた。普通の美術館のような整備されたアプローチもなく、広い敷地にプレハブの建物や大きい彫刻などが点在している。迷っていると、小柄な男性に「ワイエスはこっちですよ。今日はどちらからですか?」と声を掛けられ会場に案内された。

 会場は飾りのない平屋建てだったが、中に入って驚いた。

 ワイエスの絵がいっぱい、人もいっぱいだ。

 ワイエスは、丘の上の家を目指して草原を女性が這い上がる構図の「クリスティーナの世界」(ニューヨーク近代美術館蔵)が一番有名だ。その丘の上の家が、メーン州に実際にある「オルソン家」で、この建物はワイエスの代表的なモチーフの一つになっている。会場にはオルソン家の水彩や習作などが数十点、壁に掛けられていた。そして、かなりの数の人がボランティアの作品解説に耳を傾けていた。

 こんな場所に、何でこんなにワイエスがあるのか。

 少し混乱していると、さっき案内してくれた男性が、にこにこと会場に現れた。ボランティアのおじさんかと思っていたら、この人が絵の持ち主で、丸沼芸術の森をつくった須崎勝茂さん(66)だった。
 せっかくの機会なのでお話をうかがうと、須崎さんはこの土地で広大な倉庫を経営する社長だが、「金だけあっても地域は良くならない。文化が基盤にないとだめだ」と考え、30年前ほどから美術品の収集を始めたという。

 同時に、経済的な助けを求める若いアーティストに、アトリエを提供するなど支援を始めた。今は有名な美術家、村上隆さんも若いころに助けられた一人だ。須崎さんはワイエスの名前も知らなかったが、周りのアーティストらの切望もあり、ワイエスの238点を一括して買った。買うときにワイエス本人から「なぜ、素描や習作をたくさん買うのか」と聞かれた須崎さんは、「あなたの作品は日本の若い画家の勉強になる。それと、日本にはあなたの絵に癒される人が多い」と答え、ワイエスを感じ入らせたという。

 そんな話や、ワイエスとの家族ぐるみの付き合いの模様を話す須崎さんの笑顔はとてもチャーミングだ。ワイエスもこの笑顔に「やられた」に違いない。展覧会を訪れる前に感じた疑問は、須崎さんに会って解けた。

 展覧会は11月19日まで。月曜休館。 (共同通信エンタメデスク 宇野隆哉 )