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日めくり

ロシアの冗談は米国に通じない

トランプ米大統領(中央)とホワイトハウスで談笑するロシアのラブロフ外相(左)とキスリャク駐米大使=10日(タス=共同) トランプ米大統領(中央)とホワイトハウスで談笑するロシアのラブロフ外相(左)とキスリャク駐米大使=10日(タス=共同)

 米政界を揺るがせているトランプ政権の「ロシアゲート」疑惑だが、ロシアは米大統領選挙介入のほか、トランプ大統領によるロシアへの機密情報漏えいなどを一切否定。ラブロフ外相は、旧ソ連時代の筋違いなアネクドート(政治小話)を引き合いに出し、連日、トランプ大統領への厳しい追及を続ける米メディアを批判した。

 キプロスを訪問したラブロフ氏は18日、カスリーディス・キプロス外相との共同記者会見で、機密情報漏えいについて「多くの米メディアが、ソ連時代の有名な(アネクドートの)原則を地で行っているような印象を受ける。つまりプラウダ(真実)紙にはイズベスチヤ(ニュース)がなく、イズベスチヤ紙にはプラウダがないということだ」と語った。

 アネクドートとは旧ソ連時代に、検閲などにより言論を厳しく統制されていた国民が不満のはけ口として、共産党やその指導者、社会の矛盾などを批判するために好んで口にした小話。ほとんどすべてが作り話で、主にアルメニア・ラジオという架空のラジオ局が放送することになっていた。それぞれの話に「落ち」があり、クスッと笑わせる〝傑作〟も多い。私が好きな話はこれだ。

 社会主義者と資本主義者、共産主義者が待ち合わせしていたところ、社会主義者が遅れてきた。

 社会主義者「遅れてすみません。ソーセージを買うのにえらい行列に並ばされたもので」
 資本主義者「行列って何のこと?」
 共産主義者「ソーセージってなに?」

 資本主義者は、慢性的な物資不足で食料品などの購入のため長い行列に並ばされたソ連の「行列」の存在を理解できない一方で、社会主義からさらに進歩し、労働者のパラダイスであるはずの共産主義に住む人は、さらに物資不足が進み「ソーセージ」の存在すら分からなくなるとの自虐的な話。ソ連の苦しい生活を知っている中高年の世代なら、今でも笑ってくれるかもしれない。

 話を戻すと、ラブロフ氏が引き合いに出した「プラウダ」とはソ連共産党機関紙でかつては1000万部超と世界最高の発行部数を誇った。ソ連政府紙「イズベスチヤ」と並び、ソ連の2大紙とされたが、実際は両紙とも政権のプロパガンダメディアだった。ロシア語でプラウダは「真実」、イズベスチヤは「報道、ニュース」との意味を持っておりそこから、政権のプロパガンダメディアには真実も客観的なニュースもないとの意味で「プラウダにはイズベスチヤがなく、イズベスチヤにはプラウダがない」との言葉の掛け合わせを基にしたアネクドートが生まれたが、あくまで政府の言論統制に対する国民の不満を示すエピソードなのだ。

 ロシアゲート疑惑を鋭く糾弾しているニューヨーク・タイムズ紙やCNNテレビは民間企業であり政権の機関紙などではない。これほど厳しい政権批判は逆に、言論統制どころか、米国の自由な言論を象徴している。まさかラブロフ氏がこのアネクドートの意味を知らなかったとは思えないが結果的に、意味を取り違えた筋違いな引用と言わざるを得ない。

 ロシア側への機密情報漏えいについてはプーチン大統領も17日、「ラブロフ氏が〝秘密〟を私にも、ロシアの特務機関にも伝えなかったので、叱責しなくては」と冗談ながらに、漏えいの事実を否定。「米政府が可能と判断するなら、(トランプ、ラブロフ)両者の会談録を米議会に提示する用意がある」と言明したが、米紙ワシントン・ポストが「米議員たちはプーチン氏の申し出を一笑に付した」とするなど、米側では会談録提供の申し出を誰もまじめに受け取っていない。

 与党共和党内ですらも否定的な声が多数。ルビオ上院議員は会談録について「メールできたら、添付ファイルをクリックすることはないでしょう」と、ロシアのサイバー攻撃を踏まえた皮肉で笑いを誘った。コリンズ上院議員も「どのような証拠もプーチン大統領から受け取るというのはばかげている」と一蹴。キンジンガー下院議員は「プーチンのような殺人鬼の独裁者とは話をしない」と言明した。ロシアの冗談は米国には通用しなかったようだ。 (47NEWS編集部 太田清)