「李登輝氏からの手紙」

李登輝氏の略歴

 23年1月、日本統治下の台湾生まれ。京都帝大(現京大)で学ぶ。88年1月~00年5月、台湾総統。07年、松尾芭蕉の「奥の細道」ゆかりの地として東北地方を訪問。著書に「台湾大地震救災日記」。

日本文化の品格を称賛 李登輝(元台湾総統)

 台湾の民主化を成し遂げた李登輝元総統(88)は「22歳まで日本人だった」と公言する大の親日家。流ちょうな日本語でつづった手紙で、壮絶な被害が出た東日本大震災の中、互いに助け合い、苦難を乗り越えようとする日本人の姿を「日本文化の持つ品格と価値」と高くたたえた。

自信と勇気奮い起こせ 被災者参加で町づくりを

 まずは、この紙面をお借りして、日本の皆様、及び心身ともにつらい日々をすごしていらっしゃる被災地の皆様に、衷心よりお見舞いを申し上げると同時に、震災で亡くなられた方々のご冥福をお祈り申し上げます。

 1999年9月21日、台湾でもマグニチュード(M)7・3(米地質調査所によると、7・7)、震源が地表からわずか1キロという中部大地震が起こり大惨事を招きました。このたびの「東日本大震災」は、津波、さらに原子力発電所の事故も加え、その複雑さは比較にはなりませんが、以下、個人的経験から、このたびの震災の処理や再建復興について、私の見解を述べたいと思います。ささやかなりとも皆様のご参考になれば幸甚です。

 地震発生後1週間前後で、第1段階における人命救助、遺体の処理を終えることが理想的です。これが終わった時点で第2段階、つまり生存者のための種々の措置がとられなければなりません。

 そのためには、中央が緊急命令を発布して、地方自治体が何事においても震災救援を最優先して実行に移すべきであると思います。緊急命令の内容と範囲は震災救援、及び今後の再建に限定し、「被災地域の範囲の確定・被害状況の区分・救援物資の調整・土地の徴用・予算などに及び、全て現行法令の制限を受けないようにする」。その目的は国民の自由を保護し、民主政治を徹底的に遂行して、震災救援、及び再建を効率的に進め、政府に必要な措置をとらせることにあります。

 一国の総理たるものは、民を愛し、被災地の現状を肌で直に知る必要があると思います。リーダーシップを発揮するには、自分だけでなく、自衛隊の幕僚長と官房長官を

従え、ヘリコプターから降りて、災害地を一つ一つ見て回り、苦しむ被災者を慰問。地方自治体の指導者を交えて、救助措置及びその財政負担を聞き取ることが大切です。

 第3段階と言える再建、復興策はまず、被災した家屋の鑑定作業を迅速に行う。これは家を失った被災者の心のケアにつながるのです。その心のケアに関しては、その方面の専門の方々が被災地に赴き、被災者が悲惨な記憶から抜け出して、新たな人生を切り開く手助けをする必要があると思います。

 このほか、台湾では救済の一環として、被災者に復興の仕事をあっせんしました。この方式は彼らの心のケアにもたいへん役立ちました。困難の中でも、国民が勇気と希望を失わずに、団結と努力で廃虚の上に美しい理想の町を創造するため、地域の公共事業や公共建設に住民が参加することが大切であると思います。

 再建の過程で、政府は大部分の資源を提供すべきですが、新しい町の主役である住民もまた主導的な力を発揮し、自治と互助のシステムを活用して意見をまとめ、地方文化の特色を持った理想の町づくりを進めるべきであると思います。

 諸外国からこのたびの震災の中で日本人のマナーは世界一だ、困難の中に社会の秩序がよく保たれている、などと称賛の言葉が多く上がっています。互いに助け合い、苦難を乗り越えようとする同胞愛がひしひしと伝わってきます。これこそが日本文化の持つ品格と価値であり、今後復興を進めて行く上での最大の力であると私は固く信じております。自信と勇気を奮い起こし頑張ってください。

台湾元総統 李登輝
(共同通信)
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