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【為末大の視点】第8回 食事は豆腐1丁から

 為末大氏
 引退してから5年、最近は「どうやって体形を保っているんですか」という質問が増えた。確かに現役時代から3、4㌔少ないところで大体止まっている。そもそも太りにくい体質の影響が大きいだろうが、現役時代に覚えた自己抑制をするコツも生きているように思う。栄養学の知識は今やどこでも手に入る。難しいのは実行であり継続だろう。


 陸上競技の短距離ではほとんど体重制限はないが、それでも多少脂肪を減らす時があった。いわゆる教科書的にやればカロリーの総量を減らし、バランスの良い食事を心掛ける。ところがそれを日常的にやるには練習で疲れている中で、意識して行わなければならないし、またおなかいっぱい食べられないというストレスも抱える。


 これは多分我慢しきれないだろうと思ったので、豆腐を大量に買い込んで、毎食の始めに1丁食べるというやり方をしていた。そうすれば満腹になる上に、高タンパクで脂質糖質も制限できる。「最初に空間を豆腐で埋めてしまえ」という発想だった。


 自己抑制のコツというと、どうやってベストを維持するかというやり方に思われがちだが、私にとっては、人間は必ず心が弱るので弱った時にも脱落しにくい仕組みを作ることだった。私自身、意志の力がさほど強くなかったから、ベストよりもベターの方が結局機能したからだ。


 ダイエットであれば1年間の完璧なスケジュールを立てるよりも、冷蔵庫から無駄な物を捨てて、食べ物を買える場所から遠くに住む方がよほど成功率は高い。面倒くさいという力も強いから、食べ物を手に入れるコストを高くすれば、人は面倒くさがって食べない可能性が高い。


 心理学の実験でも、完璧な計画を完璧にやり遂げようとする人ほどたった1回の妥協で、全てがダメになったと思い、計画が破綻しやすいということがある。レジリエンス(回復力)という言葉があるが、私は強固な柱のようなイメージではなく、押せばしなるが決して折れない竹のようなイメージで捉えている。


 引退してから今、行なっているのは靴をスニーカーに変えることだ。これは前の職業(プロ陸上選手)の癖かもしれないがスニーカーであれば、どうしても歩いたり階段を一つ飛ばしたりしたくなる。意識せずに過ごし、1カ月の数値を計ると30%ほど歩行距離が伸びていた。健康な社会をつくるという目的であれば「スニーカーマンデー」なんていうのを作ってもいいと思うのだが。


【第7回 自分に問い掛け解決を】
【第6回 アスリート性】
【第5回 人間観を変えよう 管理型から選手主導型】
【第4回 生産性とトレーニング】
【第3回 見知らぬ自分と付き合う スポーツで学べること】
【第2回 休む勇気】
【第1回 問われるスポーツの公平 科学の力で変容】

2017/05/23 11:34

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