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【国境の旅がオモシロイ】モニターツアーに参加してみた/ルートの珍しさが好評

 北海道・稚内市北方記念館で、サハリンと北海道の歴史的なつながりについて説明を聞く参加者=2015年6月
 尖閣諸島(沖縄県)、竹島(島根県)、北方領土と、日本が周辺国との領土問題を抱える中、北海道大や九州大の研究者らが、国と国の境界地域を観光を通じて活性化させる「ボーダーツーリズム(国境観光)」を提唱し、観光業界も注目している。研究者らでつくるNPO法人「国境地域研究センター」(名古屋市)が企画した北海道・稚内港からロシア極東サハリンを訪ねる6月のモニターツアーに同行した。

 ▽辺境を強みに

 4泊5日のツアーには北海道や京都、福岡などから一般客と研究者ら計35人が参加。全員が稚内に集合、国境を隔てた二つの町を一度に訪れるのがツアーの特徴だ。初日は稚内市職員がガイド役を務め、市内を見学。国内最北端の宗谷岬、江戸時代に対ロシア警備で派遣された会津藩士らの墓、日露戦争後から太平洋戦争終結時まで日本が統治した旧樺太(サハリン)の様子を展示する稚内市北方記念館を回った。

 熊本県菊陽町の無職 上田晴紀 (うえだ・はるき) さん(61)は「稚内とロシアの関係の長さを知り、お互いの近さを実感できた。稚内に寄らなければ分からなかった感覚だ」と話した。

 「中央からの遠さや隣国との摩擦といった、辺境地域の弱みを強みに変える仕組みづくりが国境観光の狙い」とツアーを企画した研究者の一人、北大の 岩下明裕 (いわした・あきひろ) 教授(52)=国境学=は説明する。

 ▽長崎、沖縄でも

 国境観光は国境・境界研究の実践例の一つ。国内では北大や九大などで研究が進んでおり「長崎県・対馬―韓国」「沖縄県・八重山諸島―台湾」でも可能性が指摘される。観光を通じ辺境地域を海外への玄関口に変え、発展させるのが目標だ。

 岩下教授は「地元の人に国境が観光資源になると気づいてもらうことも重要」と指摘。地元で当然のことが観光資源になると感じてもらうため、稚内では観光ルートづくりを市職員に一任し、行政を積極的に巻き込んだ。

 人の往来が増えれば安全保障の面でも効果が期待できる。対岸の国との交流が進み、相互依存が深まれば「あえて関係を壊すという行動を取りにくくなり、抑止力にもなる」と語る。

 ▽グラデーション

 2日目、一行は稚内港からフェリーに乗り込み159キロ先のサハリン南部のコルサコフ港へ。5時間半で到着したサハリンは看板がキリル文字に変わった。町ではたまねぎ頭のロシア正教会やレーニン像が目立つ一方、道端には北海道と同じくシラカバやライラックが生えていた。

 千葉県鎌ケ谷市の会社役員 野田二郎 (のだ・じろう) さん(62)は「自然は北海道と似ているのに、文化や街の雰囲気が全く違う。近いのにこれだけ差があるのが面白い」。

 サハリンでも日本との関係を意識したルートが続く。日露戦争で日本軍が上陸した 女麗 (めれい) (プリゴロドノエ)や日本統治時代に建てられたサハリン州立郷土史博物館(旧樺太庁博物館)を訪問し、サハリン建築史の専門家の説明に聞き入った。

 岩下教授は「国境地域のグラデーションを楽しむのが 醍醐味 (たいごみ) 」と語る。稚内市内の道路標識には英語とロシア語が併記され、他の国内都市にはないロシア人への配慮が目立つ。国境近くの町にあるこうした変化を教授はグラデーション(直接の意味は「色調などの段階的な変化」)と呼ぶ。

 稚内市から参加した主婦の 寺町由佳子 (てらまち・ゆかこ) さん(29)は旅行を終え「サハリンでもアイヌの道具があり共通の歴史を実感した。一方で町はロシアの雰囲気。両方を比較しながら旅ができ、違いを楽しめた」と振り返った。

◎対馬や八重山諸島も熱視線 旅行会社は商品化を検討 

 国内では韓国に近い対馬(長崎県)、台湾に近い八重山諸島(沖縄県)でも国境観光への地元の期待は高く、熱い視線が注がれる。モニターツアーや専門家との共同研究を通じてデータ収集。既にツアーが2回行われた対馬については、旅行会社も「新たな商品になりうる」と検討を始めた。

 対馬―釜山(韓国)間はNPO法人「国境地域研究センター」が2013年に最初にモニターツアーを企画したルートだ。2度目の今年3月のツアーでは、2泊3日で福岡から対馬経由で釜山に向かった。一度に対馬と釜山の両方を訪ねるルートの珍しさが参加者に好評だったという。

 移動に船と飛行機の両方を使うため、福岡―釜山間を飛行機の往復運賃で移動する場合と異なり、旅費は通常の釜山旅行に比べて2万~3万円高かったが、募集締め切り後も参加の問い合わせがあった。旅行後のアンケートでは9割以上が「満足」と回答した。

 こうした結果を受け、モニターツアーを販売した近畿日本ツーリストは正規ツアーとして商品化の検討を始めた。ツアーを担当した同社の 二田茂行 (にた・しげゆき) さん(63)は「想像以上に反応が良かった。『国境』というテーマが旅に新しさをもたらしたのでは」と分析する。

 沖縄県竹富町も昨年から専門家と国境観光の共同研究を始めた。今年10月にも石垣島から台湾へ向かう初のモニターツアーを計画している。町の担当者は「これまで国境を観光資源にする発想はなかった。観光客の減る冬場の目玉になれば」と期待している。

◎「北の終着地から玄関に」 稚内、海路存続には不安も 

 北海道稚内市でも「最北端の町が、終着地から外国への玄関口になる」と国境観光への期待は高い。一方で旅行の前提となる稚内―サハリン・コルサコフ間の航路についてフェリー運航会社が赤字を理由に年内で撤退すると表明。市は新会社を設立し存続させる方針だが、今後の運航計画は不透明で不安も聞こえる。

 「サハリンは5時間半で行ける最も近いヨーロッパ」とは市内のスーパ経営 今村光壹 (いまむら・こういち) さん(65)。稚内商工会議所のメンバーでもある今村さんは、国境観光が「従来の稚内観光の希望者と異なる人をターゲットにできる」と新たな旅行者獲得につながると指摘する。

 稚内市サハリン課の 中川善博 (なかがわ・よしひろ) 主査も「サハリンへの玄関口として浸透すれば稚内を目指す人も増えるだろう」と話す。これまでサハリン航路は知名度が低く、稚内に来て初めて知る旅行者も少なくなかった。最北端のイメージが先行する町が、国境観光の浸透で変わる可能性に期待を寄せる

 しかし来年以降のサハリン航路の行く末は不透明だ。稚内市は民間と新会社を設立して航路を引き継ぐ方針だが、詳細はまだ決まっていない。市によると、同航路の旅客数は2006年の6681人をピークに減少。昨年は4438人だった。

 市内でサハリン旅行を販売する北都観光の 米田正博 (よねた・まさひろ) 専務(67)は「船の問題は大きい。先行きがはっきりしないとツアーも組めなくなる」と不安を口にした。

(共同通信旭川支局=西村曜)

2015/07/27 15:56

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