大転換 第8部 感覚が変わる3

 3分40秒07(400メートル自由形)、1分51秒92(200メートル背泳ぎ)、1分42秒00(200メートル自由形)…。この夏、ローマの世界水泳で出た43の世界新記録のうち15は、伊アリーナ社製の水着を着て生まれた。水の抵抗を極限まで抑える素材「バイオラバースイム」は、大阪市に本社がある山本化学工業が開発した。 

 「魚の表皮から着想を得た」と、山本富造(やまもと・とみぞう)社長(50)。影響の大きさから国際水泳連盟は水着規定を変更したが、山本社長は「もう昔の海パンには戻れないはず」と話す。高速水着はいわば、現代人が手に入れた第二の皮膚なのだから―。

 「第二の皮膚としての服」。近代のファッション界が取り組んできたこのテーマに、ブランド「ソマルタ」のデザイナー広川玉枝(ひろかわ・たまえ)さん(32)は新しい答えを出した。2008年春夏のショーで、モデルが身に着けたのは、世界のタトゥーを参考に創作した柄の、もう一つの「スキン」。デビュー2年目にして、見る者は強い印象を受けた。 

ファッションブランド「ソマルタ」のデザイナー広川玉枝さんとその作品=東京・六本木の「リステア」(共同)

体との境界あいまいに

高速水着、ファッション

「バイオラバースイム」を使った伊アリーナ社製の水着を着用し、世界水泳選手権の男子400メートル自由形で世界新記録を樹立したドイツのポール・ビーデルマン=7月、ローマ(共同)

 東京・六本木のセレクトショップ「リステア」のバイヤー柴 麻衣子(しばた・まいこ)さんもその一人。ソマルタの、その名も“スキン”シリーズは、ナイロンやポリエステルを使い、無縫製の編み機で作るボディーウエア。どうすれば模様が効果的に出るか、どこに陰影を付ければ体をより美しく見せるか、入念に計算されており、違和感なく体にフィットする。

 柴田さんが店に置いたスキンシリーズは外国人にも人気だ。「レースや網タイツとは全然違う。クレイジーなのに、実用的」と柴田さん。「服と合わせるとき、スキンを着れば、気になる腕も胸元も足も〝気の利いた露出〟ができる」 

 「体そのものが第一の美」と考える広川さんのスキンは、服の概念を疑う中から生まれた。「今までの発想や服作りの繰り返しでなく、現代の技術でこそできることを研究したい。流行だけで動いていたらファッションは取り残されると思う」 

 「モードの迷宮」などの著書がある哲学者鷲田清一(わしだ・きよかず)さん(59)は「皮膚の意識が服にせり上がってきたのは80年代」と指摘する。体の線を見せるボディコンシャスの服は、大ブームを巻き起こした。服を着るため、人

々は体を理想の形に近づけようと努力した。 

 今、健康志向も高まりダイエットノウハウはさらに充実、人は自在に体形を変えようとする。より硬く華やかなつめを演出するネイル技術が一般化し、本物と見まがうつけまつげも普及。男女とも髪形や髪の色を自由に変え、カラーコンタクトで目の色を選ぶ。 

 一方で、服飾の新たな流行は瞬時に世界中に知れ渡る。パリやミラノで発表されたブランドの新作が店頭に並ぶ前に、同じトレンドを取り込み、価格も手ごろなファストファッションの服が買える。常に既視感があり、服そのものの力は弱まったように見える。 

 「ファッションは、体と服の間で揺れ動く。服で変身していたころは、いかに最新の、どのブランドの服を着るかが重要だったが、今は体に照準が合っている」と鷲田さん。体そのものを変えて別人になれる時代。皮膚にまとう物は進化し、生身との境界は一層あいまいになっていく。(中井陽共同通信記者)

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第1部 世界が変わる
第2部 生き方が変わる
第3部 日本人が変わる
第4部 資本主義が変わる
第5部 老いが変わる
第6部 働き方が変わる
①迷走する金融資本主義 ①見えてきた「生存」 ①ペンキ塗りの技伝える ①通貨暴落、住宅ローン倍に ①97歳の「出張授業」 ①海に生きる
②オバマに託す夢 ②「貧乏」を逆手に ②安い労働力、国外に求め ②「反資本主義」広がる支持 ②ボランティアで症状緩和 ②半農半X
③変革の裏側で ③女たちのルネサンス ③銀座に香港の「寿司王」 ③モノあふれ、価値観激変 ③バリアだらけで自立促す ③障害者の就労
④過熱した美術市場 ④「障害」を見つめる ④国籍捨て政治家目指す ④低価格車に誇り抱く ④ふれあう「命」支える ④派遣を超える
⑤砂漠の技術者 ⑤農村が都会動かす ⑤言葉の壁越え高校合格 ⑤大学起点に企業集団 ⑤技術が補う身体機能 ⑤面白法人でいく
⑥サムライ流多元主義 ⑥リアルを求めて ⑥ニューカマーが示す未来 ⑥目標捨てず、驚異の回復 ⑥山に生きる
⑦気付けば少数“先住民”
第7部 食が変わる
第8部 感覚が変わる
第9部 まつりごとが変わる
第10部 リサイクルが変わる
第11部 恋愛が変わる
第12部 権利が変わる
①中国ネット企業が養豚参入 ①体験と結び付き記憶に ①旋風過ぎ、残る重圧感 ①下水道から黄金取り出せ ①おせっかいかもしれないが ①裁判が認めた風景の価値
②資源も収入も減る一方 ②体震わす文脈なき歌詞 ②ネット選挙“加速”へ ②バイオ燃料、起点に循環 ②トラブル避けて出会い模索 ②納得して死んでいきたい
③「いただく」を実感 ③体との境界あいまいに ③投票率上がれ、学生奮起 ③鉱山技術で資源回収 ③わが子思い仲介に奔走 ③機関投資家の責任重く
④実態伝えぬ自給率 ④心の在りかの謎が再燃 ④初めて棄権、次は民主も ④大打撃の中古車ビジネス ④「光の出会い」幸せつかむ ④国際化の波、家族観にも
⑤捨てない努力が根付く ⑤想像し、深く感じ取る ⑤共感力失い政権転落 ⑤古民家を離島体験の拠点に ⑤彼女は画面に映るキャラ ⑤吹き荒れる逆風、でも…
⑥1日300錠の“食事” ⑥本をちゃんと届けたい ⑥性を超え、結婚を超えて ⑥“自主カメラ”急増中
⑦栄養の謎に挑む研究者 ⑦長距離ドライブを相乗り