ドラムの4連打から間髪を入れずギターがフレーズを響かせ、会場を埋め尽くす観客は一斉に激しく体を揺らし始める。ギター兼ボーカルのTKは時に声をからして絶叫。歌詞ははっきり聴き取れないが、メンバーの素朴なたたずまいからは想像もつかない音圧とうねりが、体の芯を震わす。
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今春発売されたメジャーデビュー作がオリコンの週間チャート4位を記録したロックバンド「凛(りん)として時雨」。所属するレコード会社の担当者でさえ「こんなメジャー的じゃないバンドがここまで売れるなんて…」と驚きを隠せない。
心情や情景が想像しやすい歌詞を、聴き手が共感できる


ようにはっきりと歌う―。日本のヒットチャートでは、長くそれが商業的成功の前提条件とされてきた。しかし今、その“方程式”が大きく転換しつつある。
「相対性理論」も従来の型に収まらないバンドのひとつ。CD店の店員らが選ぶ賞で、多くのヒットメーカーを抑えて大賞に輝いている。
「太平洋/大西洋/ここ一体何平洋よ」。ボーカルのやくしまるえつこが淡々と歌う歌詞には特に文脈はなく、何らかの意味を伝えようという意図は感じられない。それでいて、言葉が連鎖的に増殖するような語感の心地よさが、聴き手の心に染み込むようだ。
作家の古川日出男(ふるかわ・ひでお)さん(43)は、「韻」の力に注目する。「歌とは本来、韻を踏むもので、その気持ちよさが実は長く失われていた。身体感覚に直接迫ってくる『凛として時雨』も含め、原初的な感覚に立ち戻っているのでは」と指摘する。
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「この二つのバンドには衝撃を受けた」。精神科医の斎藤環(さいとう・たまき)さん(47)は「相対性理論」などの音楽の背後に現代人の感覚の変容を感じ取る。キーワードは「解離」だ。
「解離とは心の中のつながりが切れた状態」のこと。「凛として時雨」の外見と音楽のギャップ、感情を排しながら不思議な雰囲気を醸し出す「相対性理論」―。それらを支持するリスナーは「歌詞に共感するのでなく、その場その場のノリを渡り歩いている」とする。
何がこの変化をもたらしたのか。「2001年9月11日のアメリカ同時多発テロのインパクトが大きかった」と指摘するのは音楽雑誌編集長のMMMatsumotoさんだ。「アメリカが掲げるもっともらしい正義の“うそ”が露呈し、分かりやすい説明が疑わしいものになってしまった」
さらに不況、就職難、年金問題などが重なり、若者の間に社会に流布する意味のある言葉への不信、失望が深まったとみる。「価値観を制約しないインターネットに出口を見いだした人が多様な音楽に救われ、聴覚も広がったのではないか」
社会への信頼が崩れ、もっともらしい言葉の意味がかつてのように個人を束ねる力を持ち得なくなったとしたら―。残された「信じられるもの」は、一人一人が体感する生々しい身体感覚だったのかもしれない。
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8月、茨城県ひたちなか市の海浜公園で行われた「ロック・イン・ジャパン・フェスティバル」。照り付ける太陽の下、広大な敷地に点在するステージからは絶えず音楽が聞こえてくる。
ビールを片手にくつろぐ川崎市の男性会社員(27)は「この空間がたまらない」と満足げ。かつて「ウッドストック」「ライブエイド」などが掲げた反戦、難民救済といったメッセージ性はここにはない。「メッセージなんて別に…。ただ身体で感じて、楽しみたいだけだねえ」(瀬木広哉共同通信記者)


