おなかの調子を整えるためヨーグルトを食べる。貧血気味なら鉄分の多い食事をする。食べることで体調を整え、病気を防げることは誰もが知っているが、その仕組みは分かっていないことが圧倒的に多い。ゲノム(全遺伝情報)などの最新の知見で、この謎に取り組む研究者たちがいる。
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東京都文京区の東京大農学部地下1階の研究室。中井雄


治(なかい・ゆうじ)特任准教授が見詰めるコンピューターの液晶画面に赤や緑、青などの点が無数に広がる。実験用ラットの全遺伝子の分析結果。点の色は調べたい遺伝子の量を示す。「亜鉛が欠乏するとどんな変化が出るか」「絶食した場合は」。中井准教授の研究テーマだ。
特定の栄養を与えたり欠乏させたりしたラットと、通常のラットそれぞれの約2万種類の遺伝子全体を解析する。人やラットなどゲノムが解読できた生物は、どの遺伝子が変化したか分かれば、何に効果があるかのエビデンス(科学的根拠)になる。「ニュートリゲノミクス」と呼ばれる最先端分野だ。
研究は阿部啓子(あべ・けいこ)教授や中井准教授らが中心となり、30社以上の企業も参加。ココアを与えたラットは脂肪を蓄える遺伝子が減る一方、脂肪を燃焼させる遺伝子が増えることが判明、成分のポリフェノールに肥満防止効果があることが証明されるなど成果を上げている。
阿部教授は「食べ物で遺伝子の好ましくない変動を抑えられれば、病気の予防や、発症を遅らせることも可能になる」と語った。
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大手しょうゆメーカーのキッコーマンも研究に加わった。ブドウの種から抽出したポリフェノール「プロアントシアニジン」にも、ココアのポリフェノールと同様に肥満を防ぐ効果があることを確定した。現在は、トマトの皮から抽出した「ナリンゲニンカルコン」を解析する。
「新たな効果判明への期待はある」と研究開発第3部の西村郁子(にしむら・いくこ)さん。しかし商品化までには障害も多い。効果を明記するには「特定保健用食品」として認可を受ける必要があるが、申請から1年以上もかかり、コストも大きい。それでも研究に参加するメリットを西村さんは「進展の速い分野。最新の考え方をキャッチできる」と明かした。 こうした研究の将来について、阿部教授は「性別や年齢、家系にどんな病気が多いかなど一人一人に合わせ、どんな物を食べるべきかというレベルまで解明しなければいけない」と考えている。
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例えば、家族に高血圧の人が多い人は、発症を抑えるためにどんな食品をどのくらい食べればいいのか。「家庭医のような人に相談すれば、薬を処方する前に食事のアドバイスをするような形になるのでは。薬と食品が、一つになることもあるのかも」と阿部教授。
しかし、ポリフェノールだけでも非常に多く、無数にある栄養成分をすべて解析するのは大変な作業だ。遺伝子変動をラットでなく人体で調べるコストも膨大だ。「国家的なプロジェクトとして取り組むべきだ」と阿部教授は強調する。
すべての解析が終わるころ、われわれの「食」は大きな変化を遂げるのだろうか。「錠剤ですべての栄養を取るような形にはならない。体に良くても続きません。やっぱり食事は、毎日おいしく食べていたいじゃないですか」。未来を見据える研究者は、簡潔に答えた。(増永修平共同通信記者)


