大転換 第7部 食が変わる6

 1日に飲むサプリメントは64種類、300錠余り。少量のお茶で一気に流し込む。「ゴキッ、ゴキッ」。錠剤やカプセルがこすれ合って音を立てる。1食分の約100錠を飲むのにわずか5秒。「食道を滑り落ちる感触が気持ちいい」。和洋女子大(千葉県)で哲学を教える三浦俊彦(みうら・としひこ)教授(49)の毎日の食事風景だ。  

 東京郊外の一軒家。飾り気のない居間で1人、翌日3食分のサプリを仕分けする。イチョウ葉エキス、高麗ニンジン、梅エキス、マムシ、コラーゲン、サメの肝油…。成分の重複と用量に気を付けながら、仕切りのあるピルケースに朝、昼、晩の分を数粒ずつ入れていく。購入代金は1カ月当たり十数万円。 

 「普通の食事なら余計な栄養も取ってしまう。考えて飲めばサプリの方が効率が良い」。飽きないし、買い置きできるからと主食としてカップめんなどを食べ、直後にサプリを飲むのが習慣だ。

 食べることが嫌なのではない。週2回程度は外食もし、すし店やレストランに入る。「コミュニケーションを取る上で大切」と、学生と会食することもある。それでもサプリは欠かせない。

 錠剤やカプセルの香りが好きだ。パッケージを開けた瞬間、立ち上る“香気”が心をくすぐる。「飲み込む時の感触と香りの両方を楽しめるサプリは、僕にとって食べ物と同じ。

「日本サプリメント協会」で、イベント参加者にサプリメントについて説明する後藤典子理事長(右)=東京都渋谷区(同協会提供)(共同)

1日300錠の"食事"

サプリで生活続ける男性

自宅でサプリメントをテーブルに並べ、カップめんを食べる和洋女子大の三浦俊彦教授=東京都東久留米市 (共同)

錠剤をごっくんと飲まないと食事した気がしない」と言い切る。

 仕分け作業は、成分を読んだり効果を考えたり、じっくり時間をかける。いわば料理をする過程と「同じだ」という。

 長野県で生まれ東京都で育った。「懐かしい味」と言えるような好きな家庭料理は特にない。18歳の時、サプリに興味を持ち、次第に飲む種類が増えた。 

 年1回の健康診断では肝機能や腎機能について、C(要経過観察)の判定を受けることが多いが、ここ10年、歯科医以外の医者にかかったことはない。「風邪をひいたのが一度あるくらい」。現在の体重は55キロ、身長は168センチ。18歳の時と同じだ。 

 「サプリの食事は不自然だ」と指摘されることもある。しかし「そもそも現代人は糖質や脂肪を多く取る不自然な食生活をしている。加工食品が増えていて、今の食べ物自体が自然に反している」と反論する。 

 1997~99年に出された旧厚生省の局長通知により、従来は薬局でしか買えなかった錠剤タイプのビタミンやハーブ、ミネラルが食品として販売可能になるなど、規制緩和が進んだ。アンバランスになりがちな食生活の改善や健康志向の高まりと相まって、サプリは一挙に市場を拡大、ありふれた存在になった。

 都内にある特定非営利活動法人(NPO法人)「日本サプリメント協会」の後藤典子(ごとう・のりこ)理事長は「サプリの生産量、流通量は確実に伸びている」と指摘。一方で、協会事務局には、ビタミンCの錠剤を飲みすぎて下痢になるなど体調を崩したり、ダイエット法を誤って栄養失調になったりした人が多く相談に訪れる。

 後藤理事長は三浦さんのような極端な使用法に警鐘を鳴らす。「栄養バランスの良い食事が基本で、サプリはそれを補うもの。サプリさえ飲んでいれば大丈夫というのは幻想だ。消費者としてリテラシーを高めていかなくては」と話している。(若松亮太、葛西謙共同通信記者)

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第1部 世界が変わる
第2部 生き方が変わる
第3部 日本人が変わる
第4部 資本主義が変わる
第5部 老いが変わる
第6部 働き方が変わる
①迷走する金融資本主義 ①見えてきた「生存」 ①ペンキ塗りの技伝える ①通貨暴落、住宅ローン倍に ①97歳の「出張授業」 ①海に生きる
②オバマに託す夢 ②「貧乏」を逆手に ②安い労働力、国外に求め ②「反資本主義」広がる支持 ②ボランティアで症状緩和 ②半農半X
③変革の裏側で ③女たちのルネサンス ③銀座に香港の「寿司王」 ③モノあふれ、価値観激変 ③バリアだらけで自立促す ③障害者の就労
④過熱した美術市場 ④「障害」を見つめる ④国籍捨て政治家目指す ④低価格車に誇り抱く ④ふれあう「命」支える ④派遣を超える
⑤砂漠の技術者 ⑤農村が都会動かす ⑤言葉の壁越え高校合格 ⑤大学起点に企業集団 ⑤技術が補う身体機能 ⑤面白法人でいく
⑥サムライ流多元主義 ⑥リアルを求めて ⑥ニューカマーが示す未来 ⑥目標捨てず、驚異の回復 ⑥山に生きる
⑦気付けば少数“先住民”
第7部 食が変わる
第8部 感覚が変わる
第9部 まつりごとが変わる
第10部 リサイクルが変わる
第11部 恋愛が変わる
第12部 権利が変わる
①中国ネット企業が養豚参入 ①体験と結び付き記憶に ①旋風過ぎ、残る重圧感 ①下水道から黄金取り出せ ①おせっかいかもしれないが ①裁判が認めた風景の価値
②資源も収入も減る一方 ②体震わす文脈なき歌詞 ②ネット選挙“加速”へ ②バイオ燃料、起点に循環 ②トラブル避けて出会い模索 ②納得して死んでいきたい
③「いただく」を実感 ③体との境界あいまいに ③投票率上がれ、学生奮起 ③鉱山技術で資源回収 ③わが子思い仲介に奔走 ③機関投資家の責任重く
④実態伝えぬ自給率 ④心の在りかの謎が再燃 ④初めて棄権、次は民主も ④大打撃の中古車ビジネス ④「光の出会い」幸せつかむ ④国際化の波、家族観にも
⑤捨てない努力が根付く ⑤想像し、深く感じ取る ⑤共感力失い政権転落 ⑤古民家を離島体験の拠点に ⑤彼女は画面に映るキャラ ⑤吹き荒れる逆風、でも…
⑥本をちゃんと届けたい ⑥性を超え、結婚を超えて ⑥“自主カメラ”急増中
⑦長距離ドライブを相乗り