大転換 第7部 食が変わる5

 食料自給率は40%、国内生産は落ち込み、輸入食材なしでは毎日の食事もままならない日本。広く定着したこのイメージに異論を唱える声が出ている。低い自給率を宣伝してきた農林水産省も、食料生産の実態を正しく反映する新たな指標の導入に動き始めた。  

 見渡す限り広がる青々としたレタス畑。小松博文(こまつ・ひろふみ)さん(53)は「今年は豊作。春先より玉が大きくなってきた」と笑顔を見せた。長野県は全国一のレタス産地。涼しい気候を生かした夏レタスが最盛期を迎えている。佐久市にある小松さんの農場では、計画的な育成で5月から10月

食料自給率の指標などについて検討する政府の農政改革特命チーム=6日、農水省(共同)

実態伝えぬ自給率

新たな指標導入へ

一面に青々と広がるレタス畑で、収穫について話す小松博文さん=長野県佐久市 (共同)

までほぼ毎日収穫する。「収穫に最適な日はそれぞれ2日間ほどしかない。それを過ぎると固くなりすぎる」 

 レタスの自給率は99%。小松さんは「値段が安い。生産履歴がしっかりしていて安心」と国産の強みを解説する。ハクサイ100%、キャベツ99%、玉ネギ80%…。かつての100%から下がってきているものの野菜類の自給率は77%と高い。

 「実は日本は農業大国です」と語るのは月刊誌「農業経営者」の浅川芳裕(あさかわ・よしひろ)副編集長。「国内生産額は先進国で米国に次いで2位、世界全体でも5位」と明かす。 

 焼き芋2本、ジャガ芋1個、リンゴ4分の1…。食料輸入が止まった時の「昼食メニュー例」だ。農水省が国民に「(食料は)常日ごろから自分の国でつくることが大切」と訴えたパンフレットで紹介した。農業白書も自給率は「主要先進国で最低水準」として“危機感”をあおってきた。 

 自給率は、国内の食料消費がどの程度、国産でまかなえているかを示す。農水省は食材の栄養価であるエネルギー(カロリー)を使うが、世界標準ではなく、他国の数値は農水省が試算したものにすぎない。浅川氏は「政策目標にしているのは日本ぐらい。経済指標に役立つなら各国が採用するはず」と話す。 

「所得が上がれば、でんぷん質から動物性タンパク質に

シフトするのは人類史的傾向」と指摘するのは大妻女子大の田代洋一(たしろ・よういち)教授。豊かになるに連れ、食生活の変化で肉や油を使った料理が当たり前に。輸入に頼っている油脂類や畜産物が増えた結果、自給率は1965年度の73%から2007年度の40%に落ちた。 

 だが、カロリーだけで食生活を評価できるのだろうか。1人が1日に消費する2551キロカロリー(廃棄分含む)のうち、国産比率の高い野菜類は75キロカロリーしかない。国際食料問題に詳しい坪田邦夫(つぼた・くにお)九州大教授は「低カロリーな野菜や果物を農家がいくら生産しても、自給率にほとんど反映されない」と話す。  

 食料安全保障の面でも、自給率は役に立つ指標とは言えない。食料輸入がストップした時、どのぐらい国内に食料供給能力があるかは、農地や水、担い手、技術などを考慮しなければ分からない。「カロリー自給率はスローガンとしては分かりやすいが、緊急時の安全とは直接の関係がない」と坪田教授はみる。 

 6月24日夕。政府の農政改革特命チームの会合で配られた資料には、野菜の貢献度が低く、政策目標として不十分であることなど自給率批判の文言が並んだ。 
 農水省は自給率に加えて新たな指標を導入することを決め、秋までに具体像をまとめる方針だ。新指標は、農地面積や農家数、技術などを考慮して、食料生産力を把握できるものにするという。(中野省三共同通信記者)


第1部 世界が変わる
第2部 生き方が変わる
第3部 日本人が変わる
第4部 資本主義が変わる
第5部 老いが変わる
第6部 働き方が変わる
①迷走する金融資本主義 ①見えてきた「生存」 ①ペンキ塗りの技伝える ①通貨暴落、住宅ローン倍に ①97歳の「出張授業」 ①海に生きる
②オバマに託す夢 ②「貧乏」を逆手に ②安い労働力、国外に求め ②「反資本主義」広がる支持 ②ボランティアで症状緩和 ②半農半X
③変革の裏側で ③女たちのルネサンス ③銀座に香港の「寿司王」 ③モノあふれ、価値観激変 ③バリアだらけで自立促す ③障害者の就労
④過熱した美術市場 ④「障害」を見つめる ④国籍捨て政治家目指す ④低価格車に誇り抱く ④ふれあう「命」支える ④派遣を超える
⑤砂漠の技術者 ⑤農村が都会動かす ⑤言葉の壁越え高校合格 ⑤大学起点に企業集団 ⑤技術が補う身体機能 ⑤面白法人でいく
⑥サムライ流多元主義 ⑥リアルを求めて ⑥ニューカマーが示す未来 ⑥目標捨てず、驚異の回復 ⑥山に生きる
⑦気付けば少数“先住民”
第7部 食が変わる
第8部 感覚が変わる
第9部 まつりごとが変わる
第10部 リサイクルが変わる
第11部 恋愛が変わる
第12部 権利が変わる
①中国ネット企業が養豚参入 ①体験と結び付き記憶に ①旋風過ぎ、残る重圧感 ①下水道から黄金取り出せ ①おせっかいかもしれないが ①裁判が認めた風景の価値
②資源も収入も減る一方 ②体震わす文脈なき歌詞 ②ネット選挙“加速”へ ②バイオ燃料、起点に循環 ②トラブル避けて出会い模索 ②納得して死んでいきたい
③「いただく」を実感 ③体との境界あいまいに ③投票率上がれ、学生奮起 ③鉱山技術で資源回収 ③わが子思い仲介に奔走 ③機関投資家の責任重く
④実態伝えぬ自給率 ④心の在りかの謎が再燃 ④初めて棄権、次は民主も ④大打撃の中古車ビジネス ④「光の出会い」幸せつかむ ④国際化の波、家族観にも
⑤捨てない努力が根付く ⑤想像し、深く感じ取る ⑤共感力失い政権転落 ⑤古民家を離島体験の拠点に ⑤彼女は画面に映るキャラ ⑤吹き荒れる逆風、でも…
⑥1日300錠の“食事” ⑥本をちゃんと届けたい ⑥性を超え、結婚を超えて ⑥“自主カメラ”急増中
⑦栄養の謎に挑む研究者 ⑦長距離ドライブを相乗り