大転換 第7部 食が変わる1

 「イワシもサバも安くしとくよ。空揚げでもいいし、ハンバーグにしたら子供も喜ぶよ」―。7月のある土曜日、神奈川県の三浦半島先端の三浦市。地元の産物などを売る駅前の市の一角に、同市沖での朝捕り水産物を売る漁師の姿があった。   

 「その日に揚がったものだし、なかなか手に入らない魚もあるのよ」と近所の主婦、高木美佐子(たかぎ・みさこ)さんが、自転車の後ろに乗せた大きな箱いっぱいの魚を買って行った。

 直売は、漁業者が直接、消費者とつながり、地産地消のよさを知ってもらおうとの試みだ。 

青い魚のデザインのエコラベル「MSC」が張られたサケの切り身を扱う和田一彦さん=東京・築地市場(共同)

資源も収入も減る一方

漁業大国見る影もなく

週末の駅前で朝捕りの水産物を売りながら、笑顔で親子連れと言葉を交わす吉田一博さん(右)=神奈川県三浦市 (共同)

 「たいした収入じゃないけど、地の魚を知ってもらう大事な機会だし、楽しみにしてくれる人もいる」と言う吉田一博(よしだ・かずひろ)さん(35)は、主催者の上宮田(かみみやた)漁協青年部の部長。

 「部員は8人だけ。60代が1人、40代が3人いるんだ」と笑う。 

 漁師になって12年の吉田さんは「ヒラメやアワビなどすっかり捕れなくなった。10年前にはたくさん捕れたタチウオなんて最近、顔もみなくなった」と言う。 

 「おまけに魚価が下がる一方なのだから、たまらない。多くの魚が10年前の半値だもん」と副部長の藤平仁(ふじひら・じん)さん(44)が口をそろえる。

 乱獲や環境破壊で日本沿岸の漁業資源は減少が深刻化。後継者不足と高齢化が加わり、日本の漁業は衰退が著しい。世界的には健康食ブームで需要が高まり、水産物価格は上昇傾向にあるが、国内では魚価の低迷が続き「漁業大国日本」は今や見る影もない。

 2006年には日本人が食べる肉の量が魚の量を上回る一方、ノルウェーやチリなどからの安い輸入水産物が増え、ピーク時には100%を超えていた水産物の自給率は60%まで落ち込んだ。 

 「スーパーに安い魚があふれ、魚は安いものというイメージが定着してしまった。この市でも高い値段は付けられないんだ」と吉田さん。 

 「外国では漁獲規制が厳しくなって、捕る魚が減った分、質が向上して価格が上がり、漁師の収入も、新規参入者も増

えている。日本の海では規制が少なく、多くの漁師が少なくなった魚を競って捕っている」と、日本漁業を見る目は的確だ。

 「これがギンダラ。これがサケ。味も一級ですよ」―。東京・築地市場の場内の一角。冷凍倉庫の中から魚のケースを取り出しながら和田一彦(わだ・かずひこ)さん(46)が言う。1938年から続く仲卸業、亀和(かめわ)商店の3代目社長は、日本の漁業と魚食の将来を危惧(きぐ)する一人だ。 

 ケース中の切り身の袋にはみな、魚のデザインの青いラベルが張ってある。資源管理や環境保全に配慮して生産された水産物であることを国際機関が審査し、お墨付きを与えた製品にだけ張ることが許される「海洋管理協議会(MSC)」のエコラベルだ。亀和商店は06年4月、日本で初めてMSC製品を売るための認証を取得した。 

 「この10年で築地に入る魚は明らかに少なくなった。特に近海ものはひどい。でも消費者にはそれが伝わっていない。ラベルのついた製品を消費者が選んで買い、扱う業者が増えるようになれば、資源にも業者にも、消費者にもプラスになる」と、和田さんは国際的なエコラベルに日本漁業再生の手掛かりを見る。

 「減少は進んでも、まだまだ日本の沿岸の海は豊かです。いい魚の味が消費者に忘れられる前に何とかしなければ。個人の力は小さくてもできることはやらないと」 (井田徹治共同通信編集委員 )


第1部 世界が変わる
第2部 生き方が変わる
第3部 日本人が変わる
第4部 資本主義が変わる
第5部 老いが変わる
第6部 働き方が変わる
①迷走する金融資本主義 ①見えてきた「生存」 ①ペンキ塗りの技伝える ①通貨暴落、住宅ローン倍に ①97歳の「出張授業」 ①海に生きる
②オバマに託す夢 ②「貧乏」を逆手に ②安い労働力、国外に求め ②「反資本主義」広がる支持 ②ボランティアで症状緩和 ②半農半X
③変革の裏側で ③女たちのルネサンス ③銀座に香港の「寿司王」 ③モノあふれ、価値観激変 ③バリアだらけで自立促す ③障害者の就労
④過熱した美術市場 ④「障害」を見つめる ④国籍捨て政治家目指す ④低価格車に誇り抱く ④ふれあう「命」支える ④派遣を超える
⑤砂漠の技術者 ⑤農村が都会動かす ⑤言葉の壁越え高校合格 ⑤大学起点に企業集団 ⑤技術が補う身体機能 ⑤面白法人でいく
⑥サムライ流多元主義 ⑥リアルを求めて ⑥ニューカマーが示す未来 ⑥目標捨てず、驚異の回復 ⑥山に生きる
⑦気付けば少数“先住民”
第7部 食が変わる
第8部 感覚が変わる
第9部 まつりごとが変わる
第10部 リサイクルが変わる
第11部 恋愛が変わる
第12部 権利が変わる
①中国ネット企業が養豚参入 ①体験と結び付き記憶に ①旋風過ぎ、残る重圧感 ①下水道から黄金取り出せ ①おせっかいかもしれないが ①裁判が認めた風景の価値
②資源も収入も減る一方 ②体震わす文脈なき歌詞 ②ネット選挙“加速”へ ②バイオ燃料、起点に循環 ②トラブル避けて出会い模索 ②納得して死んでいきたい
③「いただく」を実感 ③体との境界あいまいに ③投票率上がれ、学生奮起 ③鉱山技術で資源回収 ③わが子思い仲介に奔走 ③機関投資家の責任重く
④実態伝えぬ自給率 ④心の在りかの謎が再燃 ④初めて棄権、次は民主も ④大打撃の中古車ビジネス ④「光の出会い」幸せつかむ ④国際化の波、家族観にも
⑤捨てない努力が根付く ⑤想像し、深く感じ取る ⑤共感力失い政権転落 ⑤古民家を離島体験の拠点に ⑤彼女は画面に映るキャラ ⑤吹き荒れる逆風、でも…
⑥1日300錠の“食事” ⑥本をちゃんと届けたい ⑥性を超え、結婚を超えて ⑥“自主カメラ”急増中
⑦栄養の謎に挑む研究者 ⑦長距離ドライブを相乗り