鼻孔の奥に突き刺さる強烈な悪臭が漂う。床の上には、10センチ以上もの深さでふんが積もっていた。鹿児島県の黒豚飼育農家。「毛穴一つ一つにまでにおいが入り込んだ」。3月下旬、日本の養豚現場視察に訪れた中国のネット企業社員、毛山(もう・さん)さん(37)は、着ていた服にもこびり付いたにおいが2回洗っても落ちず、延々と悩まされ続けた。
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毛さんは、中国四大ポータルサイトの一つ「網易」の“農業事業部”部長。時代の最先端企業と、数千年の歴史を持つ養豚業をつなげたのは、中国製ギョーザ中毒事件や有害物質メラミンによる乳製品汚染など、昨年相次いだ食品安全事件だ。
「中国の消費者の『食の安全』意識は飛躍的に高まった」。絶対に安全な商品なら値段が高くても商機はあるという読みだが、まったく畑違いの分野への挑戦。毛さん自身も今年1月に同社へ入社する前は、香港で飛行機の整備技師をし、副部長の周炯(しゅう・けい)さん(26)も新聞記者からの転職組だ。
日本の養豚業の先進技術も参考にしようと、3月下旬から約2週間かけて、鹿児島県の黒豚飼育農家など十数軒を視察。しかし「見た中の最先端業者でも、望む衛生水準には達していなかった」(毛さん)というほど、追求するレベルは高い。
毛さんらのアイデアは独創的で、ネット企業の強みを生かし、生産状況をすべて公開する方針。養豚場に監視カメラも


設置して、消費者が映像を24時間チェックできるようにする。
近く第1期として2万頭規模の養豚場を完成させる予定で準備作業は続く。「中国の養豚全体の改革のために必要な事業だ」。安全な豚肉をつくればもうかるというビジネスモデルが成功すれば、後に続く業者も現れる。豚肉全体の安全性を高めようと、夢は広がる。
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中国で「食」への意識が高まる一方、2007年の中国製ギョーザ中毒事件を受けた中国食品の安全管理に対する日本側の視線は依然厳しく、中国側の反発も出始めた。
山東省のある食品企業は、日本向けに輸出していた製品を中国国内販売などに振り替える“日本離れ”を決定した。「これまでは値段が高くて国内では売れなかったが(食の安全意識向上で)今は売れる」と経営者。
日本離れの背景には、ギョーザ事件以降、日本の消費者が中国製品に対して「極端に過敏」(同経営者)になり、少しでも問題があるとされた中国企業は経営が危うくなるという現状がある。
国内向けなら、品質や重量に問題がなければいいが、日本向けは製品の形までそろっていることが求められる。「食
品産業は『ローリスク、ローリターン』のはずだが、日本向けだけは手間がかかる上『ハイリスク、ローリターン』になっている」と言う経営者。「日本とはもう付き合いきれない」と嘆く。
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会社のホームページの社名の横にショートケーキの写真が載り、新製品紹介では、アイスクリームやワッフルが並ぶ。ギョーザ事件の製造元、天洋食品(河北省石家荘市)の今の会社紹介だ。だが同社は依然として操業停止中で、連絡先として書かれた電話番号も使われていない。中国の日本への食品輸出量は今年第1四半期も事件前の水準には回復していない。
先の経営者は、輸入停止という対策だけでなく、食の安全確保の抜本的取り組みが必要と強調。「日本はうかうかしてると、安全な食品を輸入できなくなると気が付くべきだ」と警告した。
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ギョーザ事件は食品の安全性に関する深刻な疑念を飽食日本に突きつけた。食べ物や食べることへの消費者の関心はかつてなく高まり、それは生産や流通の現場にも向かっている。食をめぐるさまざまな変化の芽を追った。 (芹田晋一郎共同通信中国総局記者)


