大転換 第6部 働き方が変わる5

 東京・お台場のイベントスペース。5月中旬、独自のネットサービスで急成長中の会社が、企画・開発に約1年を費やした「BBUプロジェクト」の新商品を発表した。  

 BBU? 業界関係者の熱い視線の先で、開発リーダーの浦上幸江(うらかみ・ゆきえ)さん(32)が説明する。「BINBOYUSURI。つまり『貧乏揺すり』がコンセプトの商品です」

 アートユニット「明和電機」との共同開発で生まれた「YUREX(ユレックス)」は、貧乏揺すりを、集中時に無意識

貧乏揺すりを解析する「ユレックス」の実演を行う浦上幸江さん(中央)。「世の中を少し面白くしたい。ユレックスが売れる日本って、すごいすてきじゃないですか」=5月中旬、東京・お台場(共同)

ナンセンスを楽しむ先に

自由に枠を飛び越える

ガラス張りの掘りごたつ型会議室や、寝転がれる畳スペースなど、オフィスまで面白い「カヤック」。手前は代表の柳澤大輔さん=神奈川県鎌倉市(共同)

に生きる“クリエーティブビート”として揺れを測定、パソコンで解析し「自分の一番ノリノリな状態を割り出してくれる」装置だ。専用サイトにつなげば、世界中の“ユスリート”たちが「今どこで揺すっているか」や「回数の世界ランキング」も分かる―。

 「ここまでやるか」という、徹底したナンセンスぶりに会場は笑いの渦。「究極のばかばかしさを追及し、やり切りました」と浦上さん。「実は、それが誇り高くて。普通の会社じゃ、やらせてくれないでしょ?」 

 自らを「面白法人」と称する会社、カヤックは神奈川県鎌倉市にあった。「ユレックスは、僕の貧乏揺すりがひどくて、『有効活用できないか』という社員のアイデアから始まったんです」と代表の柳澤大輔(やなさわ・だいすけ)さん(35)。視線はナンセンスの少し先に向かう。「ばかばかしいで終わり、とは違う。世界の人とつながったり、もっと何かを生み出そうとしている」

 柳澤さんら慶応大の同級生だった3人が1998年に設立。最初はパソコン3台だけ、3人が川の字になって寝る共同生活からスタートした。「まずは『面白い状況ってどんなの?』って考えるんです。どんな働き方ができるか、なるべく枠に捕らわれず、自由に」 

 上司の査定なんて感情一つであいまいなもの。ならばと導入したのが、サイコロで給与の上積み分を決める「サイコロ給」。「ネットさえあればどこでも働ける」と海外で住居兼オフィスを借り、社員が一定期間働く「旅する支社」の試みも。 

 誰でも出品でき、面積に応じて価格を決める「絵画の測(はか)り売りサイト」、家を建てたい人が建築家のコンペを開けるサイト…。独自のネット事業が注目を浴び、顧客のサイトを制作する受託事業も増加。今年は環境省が運営する市民参加型サイトの開発も手掛けた。「面白いことを発信し続けることで生まれるスパイラル」(浦上さん)などで、2008年の売上高は約7億円に上った。 

 浦上さんは以前働いていた大手内装会社で大型商業施設の開発を担当。東京の下町に住み、地元商店街をこよなく愛していただけに葛藤(かっとう)があった。「自分が好きなものをつぶす側に回るのかあ」。そんな時カヤックを知り、約2年前に転職。働き方も変わったという。 

 「休日も働く、じゃなくて、楽しいからもうちょっとやるか、という感覚。楽しくない仕事の先に、人を楽しませることはできないですから」 。 

 従来の会社や働き方の枠を軽々と跳び越えていくかに見えるカヤックだが、創業時から手放さずにきた指針がある。それは「『何をするか』より『誰とするか』」。「一緒に働く人にだけはこだわってきた。そうすれば、行き先は決まってなくても、面白いものになっていく」と柳澤さん。 

 現在社員は約90人。「面接で一緒に働きたいと思った人を採っていたら、増えてきましたね。順調に」。人の数だけ「面白い」が広がるかのように、柳澤さんは笑った。(多比良孝司共同通信記者)


第1部 世界が変わる
第2部 生き方が変わる
第3部 日本人が変わる
第4部 資本主義が変わる
第5部 老いが変わる
第6部 働き方が変わる
①迷走する金融資本主義 ①見えてきた「生存」 ①ペンキ塗りの技伝える ①通貨暴落、住宅ローン倍に ①97歳の「出張授業」 ①海に生きる
②オバマに託す夢 ②「貧乏」を逆手に ②安い労働力、国外に求め ②「反資本主義」広がる支持 ②ボランティアで症状緩和 ②半農半X
③変革の裏側で ③女たちのルネサンス ③銀座に香港の「寿司王」 ③モノあふれ、価値観激変 ③バリアだらけで自立促す ③障害者の就労
④過熱した美術市場 ④「障害」を見つめる ④国籍捨て政治家目指す ④低価格車に誇り抱く ④ふれあう「命」支える ④派遣を超える
⑤砂漠の技術者 ⑤農村が都会動かす ⑤言葉の壁越え高校合格 ⑤大学起点に企業集団 ⑤技術が補う身体機能 ⑤面白法人でいく
⑥サムライ流多元主義 ⑥リアルを求めて ⑥ニューカマーが示す未来 ⑥目標捨てず、驚異の回復 ⑥山に生きる
⑦気付けば少数“先住民”
第7部 食が変わる
第8部 感覚が変わる
第9部 まつりごとが変わる
第10部 リサイクルが変わる
第11部 恋愛が変わる
第12部 権利が変わる
①中国ネット企業が養豚参入 ①体験と結び付き記憶に ①旋風過ぎ、残る重圧感 ①下水道から黄金取り出せ ①おせっかいかもしれないが ①裁判が認めた風景の価値
②資源も収入も減る一方 ②体震わす文脈なき歌詞 ②ネット選挙“加速”へ ②バイオ燃料、起点に循環 ②トラブル避けて出会い模索 ②納得して死んでいきたい
③「いただく」を実感 ③体との境界あいまいに ③投票率上がれ、学生奮起 ③鉱山技術で資源回収 ③わが子思い仲介に奔走 ③機関投資家の責任重く
④実態伝えぬ自給率 ④心の在りかの謎が再燃 ④初めて棄権、次は民主も ④大打撃の中古車ビジネス ④「光の出会い」幸せつかむ ④国際化の波、家族観にも
⑤捨てない努力が根付く ⑤想像し、深く感じ取る ⑤共感力失い政権転落 ⑤古民家を離島体験の拠点に ⑤彼女は画面に映るキャラ ⑤吹き荒れる逆風、でも…
⑥1日300錠の“食事” ⑥本をちゃんと届けたい ⑥性を超え、結婚を超えて ⑥“自主カメラ”急増中
⑦栄養の謎に挑む研究者 ⑦長距離ドライブを相乗り