大転換 第5部 老いが変わる5

 「それではゆっくり立ち上がって下さい」。山口県下関市の昭和病院のリハビリテーション室。足の筋力を補助するロボットスーツ「ハル」をつけた甲斐田年勝(かいだ・としかつ)さん(63)は理学療法士に支えられながら、手すりにつかまって歩き始めた。

 甲斐田さんは脳梗塞(こうそく)の後遺症で下半身に障害がある。福岡県大牟田市から四時間かけて昭和病院を訪れ、四月下旬からロボットの利用を始めた。妻のシゲ子さん(59)は「普段はこんなに立ったり、歩いたり出来ません」と喜んだ。

 ハルは脳が筋肉に「動け」と命じた信号を皮膚の表面で検知し、患者の足の動きを助ける。昭和病院は、二月にハルを使った機能回復訓練をスタートさせた。整形外科の山崎康平(やまさき・こうへい)医師は「まだ目立った効果は出ていないが、期待しながら使っている」と話す。

 ロボットスーツを開発した筑波大学の山海嘉之(さんかい・よしゆき)教授は、ベンチャー企業の「サイバーダイン」を茨城県つくば市につくり、住宅メーカーを代理店としてハルのリースを始めた。

「老化による身体機能の衰えは避けられないが、テクノロジーで補うことは可能だ」。最先端のロボット技術によって医療、介護の現場を変えようとしている。

 富山県小矢部市のベンチャー企業「日本ロジックマシン」は介護ロボット「百合菜(ゆりな)」のレンタルを五月から始め

介護ロボット「百合菜(ゆりな)」(右)を開発した日本ロジックマシンの森川淳夫社長=東京都港区(共同)

技術が補う身体機能

メーカー、改良に努力

歩行器につかまり、脚の機能回復訓練のためロボットスーツ「ハル」を着用する甲斐田年勝さん=山口県下関市の昭和病院(共同)

た。アーム(腕)を上下させることによって人を抱き上げることができ、入浴やおむつ交換を補助する。

 創業者の森川淳夫(もりかわ・あつお)社長(54)が介護ロボットを開発しようと思い立ったのは約十五年前。特別養護老人ホームで働く知人が腰を痛めたのがきっかけだった。富山県内の電機メーカーに勤めながらアイデアを練った。二〇〇〇年には自分の会社をつくり、昨年「百合菜」を完成させた。

 「介護がつらく、限界を超えている」「一日でも早く使いたい」。森川社長の電子メールには、介護に苦労している人たちからの相談が連日届く。

 警察庁によると、「介護、看病疲れ」による〇八年の自殺者は二百七十三人。このうち六十歳以上が百五十六人を占めた。厚生労働省の調査では、六十五歳以上の「老老介護」では三人に一人が「死にたいと思うことがある」と考えているという。高齢者施設向けに開発した介護ロボットだが、森川社長は「家庭でも使えるように改良を急ぎたい」と語る。

 医療、介護用のロボットを開発しているのはベンチャー企業ばかりではない。

 トヨタ自動車は、足が不自由な人が使う移動ロボットや介護支援ロボットの商品化を検討している。三菱重工業も〇三年に発表したロボット「ワカマル」を改良中。人間の声に反応して返事をする機能に磨きをかけ、家庭で高齢者を助けることができるロボットに脱皮させるのが目標だ。

「ロボット技術は日々進化している。高齢者でも比較的簡

病院で来院者の案内を手伝う三菱重工業のロボット「ワカマル」=神戸市兵庫区の三菱神戸病院 (共同)

単に使えるようになってきた」と語るのは藤江正克(ふじえ・まさかつ)早大教授(ロボット工学)。だがロボットの安全基準や、万が一の事故に備えた保険制度などの整備はまだこれからだ。

 「社会がきちんとロボットを受け入れる準備をすれば、十年以内に相当普及するはず」。藤江教授はこう予想している。(今村琴也共同通信記者)

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第1部 世界が変わる
第2部 生き方が変わる
第3部 日本人が変わる
第4部 資本主義が変わる
第5部 老いが変わる
第6部 働き方が変わる
①迷走する金融資本主義 ①見えてきた「生存」 ①ペンキ塗りの技伝える ①通貨暴落、住宅ローン倍に ①97歳の「出張授業」 ①海に生きる
②オバマに託す夢 ②「貧乏」を逆手に ②安い労働力、国外に求め ②「反資本主義」広がる支持 ②ボランティアで症状緩和 ②半農半X
③変革の裏側で ③女たちのルネサンス ③銀座に香港の「寿司王」 ③モノあふれ、価値観激変 ③バリアだらけで自立促す ③障害者の就労
④過熱した美術市場 ④「障害」を見つめる ④国籍捨て政治家目指す ④低価格車に誇り抱く ④ふれあう「命」支える ④派遣を超える
⑤砂漠の技術者 ⑤農村が都会動かす ⑤言葉の壁越え高校合格 ⑤大学起点に企業集団 ⑤技術が補う身体機能 ⑤面白法人でいく
⑥サムライ流多元主義 ⑥リアルを求めて ⑥ニューカマーが示す未来 ⑥目標捨てず、驚異の回復 ⑥山に生きる
⑦気付けば少数“先住民”
第7部 食が変わる
第8部 感覚が変わる
第9部 まつりごとが変わる
第10部 リサイクルが変わる
第11部 恋愛が変わる
第12部 権利が変わる
①中国ネット企業が養豚参入 ①体験と結び付き記憶に ①旋風過ぎ、残る重圧感 ①下水道から黄金取り出せ ①おせっかいかもしれないが ①裁判が認めた風景の価値
②資源も収入も減る一方 ②体震わす文脈なき歌詞 ②ネット選挙“加速”へ ②バイオ燃料、起点に循環 ②トラブル避けて出会い模索 ②納得して死んでいきたい
③「いただく」を実感 ③体との境界あいまいに ③投票率上がれ、学生奮起 ③鉱山技術で資源回収 ③わが子思い仲介に奔走 ③機関投資家の責任重く
④実態伝えぬ自給率 ④心の在りかの謎が再燃 ④初めて棄権、次は民主も ④大打撃の中古車ビジネス ④「光の出会い」幸せつかむ ④国際化の波、家族観にも
⑤捨てない努力が根付く ⑤想像し、深く感じ取る ⑤共感力失い政権転落 ⑤古民家を離島体験の拠点に ⑤彼女は画面に映るキャラ ⑤吹き荒れる逆風、でも…
⑥1日300錠の“食事” ⑥本をちゃんと届けたい ⑥性を超え、結婚を超えて ⑥“自主カメラ”急増中
⑦栄養の謎に挑む研究者 ⑦長距離ドライブを相乗り