大転換 第5部 老いが変わる4

 香川県高松市。特定非営利活動法人(NPO法人)「いのちの応援舎」で、理事長の山本文子(やまもと・ふみこ)さん(65)が赤ちゃんを抱いた腕をお年寄りに差し出した。「みな笑顔になるんです」。おばあさんが伸ばした手は最初は遠慮がち。ちいちゃな手に触れるとしっかり、そして柔らかく握った。もちろんにっこりと笑顔だ。

 助産師の山本さんは、農地や住宅に囲まれた一角で友人とともに助産院を運営している。同じ建物で高齢者のデイサービスも提供。「赤ちゃんと触れ合うことで、お年寄りに生きるエネルギーが伝わる」。狙いは、誕生から老いまでの「いのちのサポート」。
 施設の設立は二〇〇六年二月。海外の事情に詳しい友人から忠告があった。「お年寄りと赤ちゃんがずっと一緒の施

高齢者の集会で講演する大渕修一さん=東京都東村山市(共同)

ふれあう「命」支える

筋トレで生活支援

お年寄りと赤ちゃんが触れ合う場をつくる山本文子さん(左)=高松市の「いのちの応援舎」(共同)

設では、双方が疲れてしまう」。このため、子育てを支援する「おやこひろば」は二階、入浴などを含む高齢者向けサービスは一階でと、適度な距離を置いている。

 高知県出身の山本さんは、「遠くに行ってみたい」と北海道で助産師資格を取得、東京都や高知県、茨城県の病院や看護学校に勤めた後、大手メーカー勤務だった夫の転勤で一九七三年に香川に落ち着いた。

 勤務先の病院の存続が危ぶまれたことから、持ち前のエネルギーで「病院おこし」の中心メンバーとなり、妊婦エアロビクスなどで盛り上げた。八六年ごろから、主に高校生のための性教育の要請も舞い込むように。

 「どんな親でもあんたたちが生まれた時には泣いたんや」。笑いと泣かせの語りが評判を呼び、一時は全国で年間二百五十回の講演をこなした。髪を金髪に染め、時にヒョウ柄の赤い服。「ど派手は人を引き込むため」

 最近は、高齢者に「触れ合い」としての性を語る講演も多い。「あけすけにしゃべるが、上品そうな婦人から笑顔でお礼を言われると、人助けかなあとうれしい」

 介護保険制度の発足は二〇〇〇年。六年後、衰えを防ぐための新たな「介護予防」が導入された。

 予防の一環である器具を使った筋力トレーニングは「高齢者には危険」との懸念も招いた。厚生労働省の研究会などで、筋トレ導入を唱えた一人が東京都健康長寿医療センター(旧・東京都老人総合研究所)の医学博士大渕修一(おおぶち・しゅういち)さん(44)。

 都内の区民センター。大渕さんがパソコンで動画を示すと、集まった約二百人の高齢者から一斉に「ワーッ」という驚

筋力トレーニングで回復し、デイケアのボランティアとして働く武智甫江さん(右)=東京都練馬区(共同)

きの声が上がった。

 動画は筋トレ「前」「後」の歩行能力の比較。高齢の女性が、いすから立ち上がって歩き始め、三メートル先の目標物を回っていすに座るまでの動きが示される。二つ並んだ一方は、足腰が衰えていたころの画像で、ゴールまで十四秒。もう一方は数カ月の筋トレ後で七秒。効果は明らかだ。

 「高齢者の場合、トレーニングで運動能力を『維持』するのが精いっぱいとされていたが、データでは『向上』が示されている」。大渕さんの説明にお年寄りたちは深くうなずいた。

 厚労省などの調べでは、介護予防の普及はまだまだ。しかし、効果は確実に上がっている。大渕さんと連携する東京都練馬区のサービスを経験した武智甫江(うらえ)さん(81)は、突然歩けなくなり、昨年十二月から三カ月、筋トレなどをこなした。現在は施設のボランティアとしてデイケアを手伝うまで元気になった。「三十分かけて歩いて通っています」。笑顔で語る。(中川克史共同通信社会保障室長)

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第1部 世界が変わる
第2部 生き方が変わる
第3部 日本人が変わる
第4部 資本主義が変わる
第5部 老いが変わる
第6部 働き方が変わる
①迷走する金融資本主義 ①見えてきた「生存」 ①ペンキ塗りの技伝える ①通貨暴落、住宅ローン倍に ①97歳の「出張授業」 ①海に生きる
②オバマに託す夢 ②「貧乏」を逆手に ②安い労働力、国外に求め ②「反資本主義」広がる支持 ②ボランティアで症状緩和 ②半農半X
③変革の裏側で ③女たちのルネサンス ③銀座に香港の「寿司王」 ③モノあふれ、価値観激変 ③バリアだらけで自立促す ③障害者の就労
④過熱した美術市場 ④「障害」を見つめる ④国籍捨て政治家目指す ④低価格車に誇り抱く ④ふれあう「命」支える ④派遣を超える
⑤砂漠の技術者 ⑤農村が都会動かす ⑤言葉の壁越え高校合格 ⑤大学起点に企業集団 ⑤技術が補う身体機能 ⑤面白法人でいく
⑥サムライ流多元主義 ⑥リアルを求めて ⑥ニューカマーが示す未来 ⑥目標捨てず、驚異の回復 ⑥山に生きる
⑦気付けば少数“先住民”
第7部 食が変わる
第8部 感覚が変わる
第9部 まつりごとが変わる
第10部 リサイクルが変わる
第11部 恋愛が変わる
第12部 権利が変わる
①中国ネット企業が養豚参入 ①体験と結び付き記憶に ①旋風過ぎ、残る重圧感 ①下水道から黄金取り出せ ①おせっかいかもしれないが ①裁判が認めた風景の価値
②資源も収入も減る一方 ②体震わす文脈なき歌詞 ②ネット選挙“加速”へ ②バイオ燃料、起点に循環 ②トラブル避けて出会い模索 ②納得して死んでいきたい
③「いただく」を実感 ③体との境界あいまいに ③投票率上がれ、学生奮起 ③鉱山技術で資源回収 ③わが子思い仲介に奔走 ③機関投資家の責任重く
④実態伝えぬ自給率 ④心の在りかの謎が再燃 ④初めて棄権、次は民主も ④大打撃の中古車ビジネス ④「光の出会い」幸せつかむ ④国際化の波、家族観にも
⑤捨てない努力が根付く ⑤想像し、深く感じ取る ⑤共感力失い政権転落 ⑤古民家を離島体験の拠点に ⑤彼女は画面に映るキャラ ⑤吹き荒れる逆風、でも…
⑥1日300錠の“食事” ⑥本をちゃんと届けたい ⑥性を超え、結婚を超えて ⑥“自主カメラ”急増中
⑦栄養の謎に挑む研究者 ⑦長距離ドライブを相乗り