階段や坂道といったバリアだらけ。手厚い介護はもってのほか。サービスを受けるには自分で“通貨”を稼ぐ―。常識外れの手法で人気を集める通所介護施設(デイサービスセンター)が山口県にある。
「夢のみずうみ村」。介護業界では知る人ぞ知る存在だ。
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山口市と防府市に一カ所ずつあるセンターでは朝、高齢者を送迎するワゴン車が到着すると、一般的なデイサービスとは異質な光景が広がる。
入り口ホールには利用者約九十人全員の名前が並んだホワイトボードと百種類近い活動メニューの札。一人一人がその日にしたいメニューを自由に選び、自分の名前の脇に張っていく。「10―11時プール、12時食事、13時水墨画、14時あんま」。そんな具合だ。
一般的なデイサービスは集団行動が基本。決められた時間に入浴、昼寝、レクリエーションと進み、食事やお茶も「上げ膳(ぜん)据え膳(ぜん)」。転倒などの危険がないよう、職


員の目の届く範囲で過ごす。
みずうみ村ではすべてが正反対。施設が決めるのは正午の食事時間だけ。食事もお茶もセルフ方式だ。活動も「パソコン」「パン作り」から「気分次第」「のんびりする」まで融通無碍(むげ)。デイサービスで定番の入浴を選ぶ人は半分ほどだ。
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施設の広さも特徴だ。山口市のセンターの床面積は約三千平方メートル。サービスを利用するには一日一キロ前後、歩かざるを得ない。利用者は広い施設内に散らばって過ごす。
廊下やトイレには手すりもない。運営する特定非営利活動法人(NPO法人)の藤原茂(ふじわら・しげる)理事長(60)は「家庭に近い環境でなるべく自立歩行を」との考えから「バリアフリー」ではなくあえてバリア「アリー」を提唱。廊下にはたんすが並べられ、伝い歩きを促す。
不親切にも見えるこの施設だが、遠方からわざわざ通ってくる高齢者が絶えない。片道五十分、送迎車に乗ってくる西条トミ子(にしじょう・とみこ)さん(94)もその一人。
「自宅近くのデイの見学に行ったんだけどね、お風呂にまで職員が付いてくる」。過剰なサービスはうっとうしいが、ここでは一人前扱い。「私の気性に合うんだよ」
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一日の最後に開かれるのが名物のカジノだ。「張った、張った」「もう一丁っ」の掛け声とともにマージャンや花札のテーブルで札束が飛び交う。札束といっても現金ではなく「ユーメ」と呼ばれる疑似通貨。
リハビリに参加したり、目標を立てるだけでも稼ぐことができるが、サービスを受けるには、すべてユーメが必要。自然

と意欲が刺激され、活気が生まれる。
「自己選択・自己決定という介護保険の精神を体現した革
命的な施設」。こう称賛するのは厚生労働省の介護関係の審議会で委員を務める龍谷大の池田省三(いけだ・しょうぞう)教授。だが、池田教授には複雑な思いがある。介護保険制度がみずうみ村に報いることができていないからだ。
池田教授の調査では、みずうみ村の利用者の約九割は要介護度が改善あるいは維持されている。こんな施設はめったにない。ところが、要介護度を改善させると、施設に支払われる介護報酬は減ってしまう。このため、ぎりぎりの経営が続く。
「報酬の仕組みが、この素晴らしい方式が広がらない要因の一つになってしまっている。何とか変えたい」(池田教授)。デイサービスを退屈と感じる高齢者は少なくない。ニーズに応えられるか。次の制度改正は三年後だ。(市川亨共同通信記者)


