大転換 第5部 老いが変わる2

 介護が必要な認知症高齢者の数は二〇二五年には三百万人を超える見通しだ。だれがかかってもおかしくないありふれた病気になる。

 「ぼけたら何もできなくなる」―。そんな懸念を吹き飛ばすように、認知症の患者たちが今、ボランティアなどの社会的な活動に取り組み始めている。

 東京都町田市の保育園を週一回、ボランティアの認知症患者らが掃除する。メンバーは、町田市福祉サービス協会が運営する「おりづる苑せりがや」のデイサービス利用者たちだ。
 きっかけの一つは、デイサービスでマージャンをしていた利用者の「遊んでる場合じゃない」というひと言。若年性認知症患者を「おりづる工務店の社員」と想定、サービスを「仕事」と説明して参加を促していたことが、この言葉につながった。本当に働ける場が必要だと思った管理者の前田隆行(まえだ・たかゆき)さんがボランティアを企画。利用者は“工務店”の制服に身を包み参加している。

 大手電機メーカーを定年退職後に発症した田辺忠明(たなべ・ただあき)さん(70)は「こうして働けるのは楽しいし、人と会えるのがいい。毎週楽しみにしている」と笑顔で話す。園児や職員からの「ありがとう」の言葉も励みだ。記憶力や判断力が衰え、普段は食事やトイレ介助が必要な人もいるが、働きぶりはそれを感じさせない。

 「集中してやりたいことをやっているので、混乱や不安などの症状が出る余地がなくなる。病気の進行も多少なりとも緩やかになっているのではないか」と前田さん。

 認知症をめぐる状況はここ十年で様変わりした。検査技術の進歩で、容易に診断がつくようになった。アルツハイマー病の進行を遅らせる薬も登場。米国では病気の進行を止め

シンポジウムで「認知症をもっと知ってほしい」と聴衆に呼び掛ける吉田民治さん(中央)=東京・赤坂の草月ホール(共同)

ボランティアで症状緩和

「いい関係」が効果

保育園で掃除などのボランティアをする認知症患者。右は前田隆行さん=東京都町田市の町田保育園(共同)

るワクチンの開発も進んでおり、あと二、三年での商品化も期待されている。

 一方で、認知症の専門医不足に加え、早期診断された人の社会生活をどう支えるかも新たな課題となっている。

 そこで注目されるのが認知症患者の社会活動だ。国立長寿医療センター(愛知県大府市)の遠藤英俊(えんどう・ひでとし)・包括診療部長は「病気の前半は十分会話できる。データはないが、周りの人といい関係を保つことで症状を緩和できる可能性が高い」と、ボランティア活動などを高く評価する。

 三重県桑名市では、認知症グループホーム「ひかりの里」の高齢者と保育園児が一緒に町を“パトロール”する。

 「一人で歩けば徘徊(はいかい)。二人なら散歩。みんなで歩けばパトロール」と同ホームを運営する医師の多湖光宗(たご・みつむね)さん。町では治安の悪さが問題になっていたが、犯罪件数は減ったという。

 「認知症の人に役割を持ってもらうと自信を取り戻せる。病

気の特徴でもある『繰り返し』が子どものしつけになったり、当を得ない対応が(かえって)相手の気持ちを和らげる」(多湖さん)という。

 講演活動などで積極的に社会に発信する患者も増えている。京都府宇治市の吉田民治(よしだ・たみじ)さん(70)は「病気のことを知ってほしいし、応援してほしい。ぼくの話を聞いておけば、同じ病気になった時、自分で気づくことだってできる」と訴える。会話の内容はすぐ忘れてしまうが、とっさの応対は可能。「顔を見てあいさつしてくれるだけでうれしい。話し掛けてくれればもっとうれしい」

 埼玉県の佐藤雅彦(さとう・まさひこ)さん(55)は「(記憶障害は)骨折で歩けなくなるのと同じ」と、認知症になっても絶望しないよう呼び掛ける。「人間の価値が低くなったとは見ないでほしい。できることを前向きにやれるような場を(社会が)用意してほしい」と希望している。(尾原佐和子共同通信記者)


第1部 世界が変わる
第2部 生き方が変わる
第3部 日本人が変わる
第4部 資本主義が変わる
第5部 老いが変わる
第6部 働き方が変わる
①迷走する金融資本主義 ①見えてきた「生存」 ①ペンキ塗りの技伝える ①通貨暴落、住宅ローン倍に ①97歳の「出張授業」 ①海に生きる
②オバマに託す夢 ②「貧乏」を逆手に ②安い労働力、国外に求め ②「反資本主義」広がる支持 ②ボランティアで症状緩和 ②半農半X
③変革の裏側で ③女たちのルネサンス ③銀座に香港の「寿司王」 ③モノあふれ、価値観激変 ③バリアだらけで自立促す ③障害者の就労
④過熱した美術市場 ④「障害」を見つめる ④国籍捨て政治家目指す ④低価格車に誇り抱く ④ふれあう「命」支える ④派遣を超える
⑤砂漠の技術者 ⑤農村が都会動かす ⑤言葉の壁越え高校合格 ⑤大学起点に企業集団 ⑤技術が補う身体機能 ⑤面白法人でいく
⑥サムライ流多元主義 ⑥リアルを求めて ⑥ニューカマーが示す未来 ⑥目標捨てず、驚異の回復 ⑥山に生きる
⑦気付けば少数“先住民”
第7部 食が変わる
第8部 感覚が変わる
第9部 まつりごとが変わる
第10部 リサイクルが変わる
第11部 恋愛が変わる
第12部 権利が変わる
①中国ネット企業が養豚参入 ①体験と結び付き記憶に ①旋風過ぎ、残る重圧感 ①下水道から黄金取り出せ ①おせっかいかもしれないが ①裁判が認めた風景の価値
②資源も収入も減る一方 ②体震わす文脈なき歌詞 ②ネット選挙“加速”へ ②バイオ燃料、起点に循環 ②トラブル避けて出会い模索 ②納得して死んでいきたい
③「いただく」を実感 ③体との境界あいまいに ③投票率上がれ、学生奮起 ③鉱山技術で資源回収 ③わが子思い仲介に奔走 ③機関投資家の責任重く
④実態伝えぬ自給率 ④心の在りかの謎が再燃 ④初めて棄権、次は民主も ④大打撃の中古車ビジネス ④「光の出会い」幸せつかむ ④国際化の波、家族観にも
⑤捨てない努力が根付く ⑤想像し、深く感じ取る ⑤共感力失い政権転落 ⑤古民家を離島体験の拠点に ⑤彼女は画面に映るキャラ ⑤吹き荒れる逆風、でも…
⑥1日300錠の“食事” ⑥本をちゃんと届けたい ⑥性を超え、結婚を超えて ⑥“自主カメラ”急増中
⑦栄養の謎に挑む研究者 ⑦長距離ドライブを相乗り