「命ってなに」「時間って何だと思う」。聖路加国際病院理事長、九十七歳の日野原重明(ひのはら・しげあき)さんが矢継ぎ早に子どもたちに問いかける。
東京都杉並区の四宮小学校で開かれた「いのちの授業」。聴診器で心臓の鼓動を聞かせる。心臓の大きさは拳と同じだと教える。周りを見ながら手を挙げる子どもたちに「自分がそう思ったら勇気を持って発言することが大事」と声を掛け、歌や冗談で和ませる。
「命は自分が使える時間を持っているということ。子どもは自分のために時間を使っているけど、大人は人のためにも時間を使うんだよ」
日野原さんは、ここ数年、年三十、四十回のペースで出張授業を続けている。
若い時は研究や名誉のことを考えていたという日野原さん


には、一九七〇年、赤軍派がハイジャックした「よど号」に乗り合わせた「生きるか死ぬか」の体験がある。「(それを機に)自分の力をどこかに返さなければと思うようになった。若い人といるとエネルギーをもらって気力も出る」
八十五歳以上は、学者の間で「超高齢者」と定義されている。東京都健康長寿医療センター(旧・東京都老人総合研究所)の増井幸恵(ますい・ゆきえ)研究員は、超高齢者の特性を「自分へのこだわりを捨て、大きな枠組みで人とのつながりや生命の流れを意識するようになる。若い世代をいとおしく思う気持ちも生まれてくる」と説明。調査の結果、体の状態にかかわらず「幸福感」が強いことが分かっているという。
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八十五歳以上の人口は二〇三五年には現在の三倍近い約一千万人に増える見通しだ。一方で百歳以上の半数は認知症との見方もあり、長寿を手放しで喜べない側面もある。
高齢者の心理に詳しい権藤恭之(ごんどう・やすゆき)大阪大准教授は、超高齢者について「人生の残り時間を意識することで、物事を前向きに考える気持ちが増す」と分析。「活動的な高齢者がもてはやされる中で、自分の老いを受け入れられない六十、七十代にメッセージを送ってくれる」と肯定的にとらえる。
また、年を取ると身体的能力は落ちても、経験に基づく判断力は衰えず、「むしろ知恵や英知は高まる。老化も遅れてきており、長く社会で活躍できる」(柴田博(しばた・ひろし)桜美林大大学院教授)という。
日本福祉大の近藤克則(こんどう・かつのり)教授が注目
するのは、他者へのかかわり方だ。調査によれば、「高齢者の健康には、誰かに支援されるだけでなく、自分も誰かを支援するのが最も好ましい」。「高齢者が地域とかかわる仕組みをどう作るかが社会の大きなテーマ」だという。
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この見方に沿った活動が、各地で始まっている。愛知県北名古屋市では、高齢者が地元の子どもに、地域の文化を伝えるため石臼など昔の道具の使い方を教えている。最高齢は九十六歳の竹内正子(たけうち・まさこ)さん。「子どもと一緒だとうれしいし、感謝の気持ちで一杯になる。年とともにかわいさが増してくる」
各地で活動する「新老人の会」の兵庫県支部は小中学生に戦争体験を伝えている。メンバーの綱哲男(つな・てつお)(82)さんは「『沖縄のような小さな島で戦争をしないで、となぜ言わなかったのですか』と問われはっとさせられた。大人が子どもを守らなければ。そこに私たちの出番がある」と語る。
「超高齢者が増えていけば、大きな経済成長が望めない今の日本にふさわしい新しい生き方をもたらすのではないか」―。都長寿医療センターの増井研究員は期待している。
世界に例のないスピードで進んだ日本の高齢化。国民の五人に一人が六十五歳以上という「前例のない高齢社会」を経験している。活躍する高齢者。支える人々。老いの今を追った。 (尾原佐和子共同通信記者)


