永遠の繁栄をもたらすかに見えた資本主義はある日突然、牙をむいて襲いかかってきた。北極圏に接する世界最北の島国アイスランド。昨年九月の米証券大手「リーマン・ブラザーズ」破綻(はたん)が引き起こした金融危機の津波に、金融立国を目指した人口約三十万人の北欧の小さな国はあっという間にのみ込まれた。
![]()
「住宅ローンの支払いが倍近くになるなんて信じられるか」。首都レイキャビクの証券仲介業、ジョンポール・ジョンソンさん(39)がため息交じりに話す。
「実は問題を抱えているんだ」。
リーマン・ショックから三週間後の昨年十月上旬、アイスランド最大のカウプシング銀行など三大銀行が相次いで国有化され、通貨クローナは一ドル=六〇クローナから同一二〇クローナと半分に暴落、国民の生活を直撃した。多くの人が住宅ローンを外貨で借りていたからだ。
「景気が過熱していたアイスランドは金利が高く、クローナで借りるとローン金利は10%を超えた。円やスイス・フランなら3%以下。銀行は『得だからとにかく借りろ』と外貨ローンを勧めた」とジョンソンさん。
住宅ローン総額千七百五十万クローナ(現在のレートで約千五百万円)のうち、二百五十万クローナを外貨ローンにしたジョンソンさんの返済額はクローナ暴落で、毎月十一万クローナから十七万五千クローナに。「危ないという認識はあった。でも遅すぎた」
![]()
一般国民が住宅ローンを外貨で借りることを可能にしたのが、この国の「金融立国」路線だった。漁業やアルミ精錬以外に目立った産業のないアイスランドは二〇〇二年、グローバルマネーを呼び込んで景気後退を克服しようと、金融自由化へとかじを切った。
銀行は高い金利を武器に海外からの預金を集めて業務を拡大。低金利の外貨ローンで国民の消費をあおり、〇七年の一人当たり国内総生産(GDP)は日本の倍近い六万二千七百ドル(約六百二十万円)と、世界三位の水準に。医療や大学までの教育費が原則無料なので、同年に国連が発表した国民生活の豊かさを示す指数は世界一だった。
だが、危機は進行していた。同年末の時点で銀行の総資産額はGDPの十倍以上に膨張。いざという時に国が銀行を支えられないのは明白で、リーマン・ショックを引き金にグローバルマネーはわれ先にと逃げ出した。
「時速三百キロで氷の上を突っ走っていたようなものだ。制

御できないのは分かっていたのに、だれも止められなかった」。国営ラジオの番組プロデューサー、ヒャルマル・スベインソンさん(50)は危機の実相をこう表現する。
![]()
三大銀行国有化から三カ月余の今年一月、議会前でデモを繰り広げた国民の退陣要求に屈する形で、ホルデ首相が辞任。「ミニ革命」(新内閣のヨーナスソン保健相)が実現した。
だが、デモに参加したアイスランド大の学生、ヒャヒテ・アゲソンさん(27)とダグビョルド・ハウコナルドッティルさん(24)のカップルは「のど元過ぎれば熱さを忘れる国民性がある。何かが大きく変わるとは思えない」と口をそろえる。
「もうけ第一の米国流資本主義に毒された価値観を見直し、持続可能なシステムをつくる必要がある」と説くトルステイン・シグフソン同大教授は、こう言って若い世代に期待を寄せた。「危機に適切に対処し、じゃじゃ馬のような資本主義を
飼いならせるか、彼らにかかっている」
十九世紀の産業革命後、急速に発展し、人類を豊かにした資本主義システムが、世界金融危機で大きく揺らいでいる。グローバル化した世界で、安心して暮らすことができる社会・経済制度の在り方を模索する人々の姿を各地に追った。(沢井俊光共同通信記者 )


