大転換 第3部世界が変わる5

 東京・荒川区の民間非営利団体(NPO)「多文化共生センター東京」。雪の中、タイ人のクー・ディース・ナタポン君(16)が笑顔でやってきた。頭には「合格」と書かれた日の丸鉢巻き。この日発表があった都立高校入試を突破したのだ。

 外国人中学生、高校受験生の勉強を支援するセンターには約五十人が通う。中国、フィリピン、タイ、ミャンマー、韓国、ネパール、ベトナム…。「こういう場所が近所にない」と埼玉県から一時間かけて来る生徒も。

 今年、都立高に合格したのはナタポン君ら二十人で五人が不合格。昨年よりずっと厳しい。代表で元都立大教員王慧槿(ワン・フイヂン)さん(59)は「金融危機の影響か、都立高の競争率が急上昇した」と話す。定員割れした定時制高校に滑り込めば日本語力は急速につき、学力も追いつくという「勝利の方程式」が、定時制高の統廃合と都立高人気の上昇で通じにくくなってきた。

 ナタポン君は合格まで二浪した。その間いったん日本語学校に通ったが、受験の役に立たずセンターへ。やはり都立高に合格したベトナム人のトラン・タン・リン君(17)も日本語学校からセンターに“転校”した。中卒後の外国人受験生を受け止める場所が乏しい。

 東京都内の公立中学に通う生徒のうち外国籍の比率は二〇〇七年度1・10%だが、高校(都内の都立・私立計)は0・54%と半分。言葉のハンディを抱え、高校に行かないまま日本社会に放り出される若者が多数いることをうかがわせる。

「そうなるとアルバイトぐらいしか生きる道がない」と王さん。母国に戻ることは「難しい。家族で来日、母国に身寄りがおらず、今さら戻れないという生徒が多い」

 下町の歓楽街に近い錦糸町。墨田区立錦糸小学校を借り

日本の高校に合格し、ガッツポーズをするフィリピン、ベトナム、中国など出身の外国人受験生。一番手前はタイ人のナタポン君=東京・荒川区の「多文化共生センター東京」(共同)

言葉の壁越え高校合格

補修教室は多国籍

中国人受験生の女の子のノート。日本語の漢字と読み仮名がぎっしり書かれていた(共同)

たボランティア団体「外国人生徒学習の会」(FSC)にも外国語が母語の中学生二十人以上が集まる。代表藤田京子(ふじた・きょうこ)さん(74)らスタッフは退職教師が中心だ。

 生徒の一人、柯瀟/キ/(カ・ショウキ)さん(16)が父親に呼び寄せられ来日したのは約一年半前。「あいうえお」もおぼつかないまま中学に通い始めた。移動教室でカレーを作るクラスメートを黙って見ていた。手伝いたかった。何と言えばいいのか分からなかった。

 中国出身の友人に勧められ、FSCに参加。不安に駆られ、夜更けに思い詰めて藤田さんに電話したこともある。貸してもらった中国語の日本史入門書を読んで、得意科目になった。「中学最後のテストで五教科九十点超えを達成した」と

はにかむ。希望の都立高に合格した。「本当は将来、音楽をやりたいけど経済的にちょっと…」

 「この子たちは宝よ」と、FSC事務局長の安藤美智子(あんどう・みちこ)さん(75)は目を細めて教室を見渡す。「日本語ができないから来日当初の成績は十点とか…でも、本当は優秀な子がたくさん」

 環境は厳しい。藤田さんは「中一で来たとして一年生では日本語を覚えるだけで精いっぱい。残りで勉強を追いつき日本人の十五歳と同じ内容の受験。過酷だ」と指摘する。

 来日時、意欲が高い間に日本語集中指導をすることがカギになるという。だが東京の区立小中学校の日本語学級制度は「設置に消極的な学校が多い」と藤田さん。「外国の子を入れると全国学力テストの点が下がると恐れてもいるらしい」とため息をついた。(沢康臣共同通信記者)


第1部 世界が変わる
第2部 生き方が変わる
第3部 日本人が変わる
第4部 資本主義が変わる
第5部 老いが変わる
第6部 働き方が変わる
①迷走する金融資本主義 ①見えてきた「生存」 ①ペンキ塗りの技伝える ①通貨暴落、住宅ローン倍に ①97歳の「出張授業」 ①海に生きる
②オバマに託す夢 ②「貧乏」を逆手に ②安い労働力、国外に求め ②「反資本主義」広がる支持 ②ボランティアで症状緩和 ②半農半X
③変革の裏側で ③女たちのルネサンス ③銀座に香港の「寿司王」 ③モノあふれ、価値観激変 ③バリアだらけで自立促す ③障害者の就労
④過熱した美術市場 ④「障害」を見つめる ④国籍捨て政治家目指す ④低価格車に誇り抱く ④ふれあう「命」支える ④派遣を超える
⑤砂漠の技術者 ⑤農村が都会動かす ⑤言葉の壁越え高校合格 ⑤大学起点に企業集団 ⑤技術が補う身体機能 ⑤面白法人でいく
⑥サムライ流多元主義 ⑥リアルを求めて ⑥ニューカマーが示す未来 ⑥目標捨てず、驚異の回復 ⑥山に生きる
⑦気付けば少数“先住民”
第7部 食が変わる
第8部 感覚が変わる
第9部 まつりごとが変わる
第10部 リサイクルが変わる
第11部 恋愛が変わる
第12部 権利が変わる
①中国ネット企業が養豚参入 ①体験と結び付き記憶に ①旋風過ぎ、残る重圧感 ①下水道から黄金取り出せ ①おせっかいかもしれないが ①裁判が認めた風景の価値
②資源も収入も減る一方 ②体震わす文脈なき歌詞 ②ネット選挙“加速”へ ②バイオ燃料、起点に循環 ②トラブル避けて出会い模索 ②納得して死んでいきたい
③「いただく」を実感 ③体との境界あいまいに ③投票率上がれ、学生奮起 ③鉱山技術で資源回収 ③わが子思い仲介に奔走 ③機関投資家の責任重く
④実態伝えぬ自給率 ④心の在りかの謎が再燃 ④初めて棄権、次は民主も ④大打撃の中古車ビジネス ④「光の出会い」幸せつかむ ④国際化の波、家族観にも
⑤捨てない努力が根付く ⑤想像し、深く感じ取る ⑤共感力失い政権転落 ⑤古民家を離島体験の拠点に ⑤彼女は画面に映るキャラ ⑤吹き荒れる逆風、でも…
⑥1日300錠の“食事” ⑥本をちゃんと届けたい ⑥性を超え、結婚を超えて ⑥“自主カメラ”急増中
⑦栄養の謎に挑む研究者 ⑦長距離ドライブを相乗り