大転換 第二部生き方が変わる⑤

 東京・秋葉原などで人気の美少女イラストが、人口一万八千人の秋田県羽後町から全国に旋風を巻き起こしている。地域の魅力を全国発信したい。長年、受け継がれた雪国の若者たちの思いが都会の心を動かしている。


 「東京出身のわたしには見たこともない美しい景色」―。内陸部の羽後町は、冬は二メートルもの雪が積もる豪雪地帯。二〇〇八年六月、人気イラストレーター、西又葵(にしまた・あおい)さんは美少女イラストコンテストの特別審査員として初めて町を訪れ、農村の光景に目を奪われた。西又さんのイラストで大ヒットした特産米「あきたこまち」や焼酎「花嫁道中」誕生のきっかけだ。

 コンテストは東京の出版社に勤める町出身の山内貴範(やまうち・たかのり)さん(24)が企画。新進イラストレーターたちに依頼し、町の民家や神社、伝統の西馬音内(にしもない)盆踊り、そして十二キロの雪の峠道を花嫁道中が馬そりで越えるイベント「ゆきとぴあ七曲(ななまがり)」を描いたポスターも制作した。

 絵に注目したのが地元銀行の支店長だった佐々木章(ささき・あきら)さん(51)だ。「これは町おこしになる」。山内さんとJAや酒店を回り商品化を提案した。「商品の中身にもこだわって」。検討を重ね、昨年秋、西又さんの絵をあしらったあきたこまちと、焼酎が発売された。

「あきたこまち」の米袋や焼酎「花嫁道中」のラベルを描いたイラストレーターの西又葵さん(中央右)と、仕掛け人の山内貴範さん(左下)=1月31日、秋田県羽後町の学習塾(共同)

雪国に美少女イラスト旋風

地域の魅力、若者が発信

「ゆきとぴあ七曲」の花嫁道中で、幻想的な明かりのなか馬そりで峠を越える新郎新婦(奥)=1月31日、秋田県羽後町(共同)

 JAうごが売り出したあきたこまちは、三カ月で通常の年間販売の約三倍にあたる四十トン近い売り上げ。焼酎も飛ぶように売れ、イチゴや羽後牛のカレーのパッケージを美少女のイラストにした商品も登場した。

 町には全国から直接、買いに来る若者の姿も。JAうごの担当者は「米が若い人に受けるとは思わなかった。オタクの人たちに陰気なイメージを持っていたが、会ってみたら、すごく親切で明るい」と驚きを隠さない。

 ブームの中で山内さんの気持ちは複雑だ。「好きなイラストを通じて町の魅力を伝えたかったのに、マスコミは“萌(も)え”などの部分ばかりを強調する」と不満がある一方で「地元が元気になってほしい」との思いは変わらない。山内さんは県内外から町に駆け付けた若者たちと話し合い、地域の魅力発掘のために新たな仕掛けを練っている。


 羽後町は「昔から青年会やイベント活動が盛んだった」(大江尚征(おおえ・なおゆき)町長)。焼酎をヒットさせた酒店主、菅原弘助(すがわら・ひろすけ)さん(58)は一九八六年

に始まったゆきとぴあ七曲の実行委員長。東京から二十六歳で町に戻り「こんな雪が多いところに住みたくない」と言う人々を変えたいと地域の若者に呼び掛け、昔の婚礼風景を復活した。「本当にやりたいことを見つけた」

 山内さんが町で活動拠点としている学習塾を経営する阿部久夫(あべ・ひさお)さん(60)は、八八年に農村の結婚難を訴えるためにトラクターで東京・原宿を駆け抜け全国で話題を呼んだ「嫁こいデモ」を実行したグループの一員。教え子の山内さんは「旧体制に立ち向かい、行政に頼らないなど通じるものはある」と話す。師弟は今、かやぶき屋根の保存運動にも取り組む。

 一月三十一日。季節外れの雨は未明に大雪に。沿道の人々に見守られながら五時間の道のり。日暮れの峠、新郎新婦を乗せたそりを馬が体から湯気を立てて引く。明かりは道中の人々が持つちょうちんと、道脇に並ぶろうそくだけだ。東京から来た学生らも列に加わった。ファンの地元中高生と交流後、駆けつけた西又さんの姿も。町の人々はこう話す。「ゆきとぴあの時だけは雪が降ってほしいんだ」(矢野晃生、橋田欣典共同通信記者)


第1部 世界が変わる
第2部 生き方が変わる
第3部 日本人が変わる
第4部 資本主義が変わる
第5部 老いが変わる
第6部 働き方が変わる
①迷走する金融資本主義 ①見えてきた「生存」 ①ペンキ塗りの技伝える ①通貨暴落、住宅ローン倍に ①97歳の「出張授業」 ①海に生きる
②オバマに託す夢 ②「貧乏」を逆手に ②安い労働力、国外に求め ②「反資本主義」広がる支持 ②ボランティアで症状緩和 ②半農半X
③変革の裏側で ③女たちのルネサンス ③銀座に香港の「寿司王」 ③モノあふれ、価値観激変 ③バリアだらけで自立促す ③障害者の就労
④過熱した美術市場 ④「障害」を見つめる ④国籍捨て政治家目指す ④低価格車に誇り抱く ④ふれあう「命」支える ④派遣を超える
⑤砂漠の技術者 ⑤農村が都会動かす ⑤言葉の壁越え高校合格 ⑤大学起点に企業集団 ⑤技術が補う身体機能 ⑤面白法人でいく
⑥サムライ流多元主義 ⑥リアルを求めて ⑥ニューカマーが示す未来 ⑥目標捨てず、驚異の回復 ⑥山に生きる
⑦気付けば少数“先住民”
第7部 食が変わる
第8部 感覚が変わる
第9部 まつりごとが変わる
第10部 リサイクルが変わる
第11部 恋愛が変わる
第12部 権利が変わる
①中国ネット企業が養豚参入 ①体験と結び付き記憶に ①旋風過ぎ、残る重圧感 ①下水道から黄金取り出せ ①おせっかいかもしれないが ①裁判が認めた風景の価値
②資源も収入も減る一方 ②体震わす文脈なき歌詞 ②ネット選挙“加速”へ ②バイオ燃料、起点に循環 ②トラブル避けて出会い模索 ②納得して死んでいきたい
③「いただく」を実感 ③体との境界あいまいに ③投票率上がれ、学生奮起 ③鉱山技術で資源回収 ③わが子思い仲介に奔走 ③機関投資家の責任重く
④実態伝えぬ自給率 ④心の在りかの謎が再燃 ④初めて棄権、次は民主も ④大打撃の中古車ビジネス ④「光の出会い」幸せつかむ ④国際化の波、家族観にも
⑤捨てない努力が根付く ⑤想像し、深く感じ取る ⑤共感力失い政権転落 ⑤古民家を離島体験の拠点に ⑤彼女は画面に映るキャラ ⑤吹き荒れる逆風、でも…
⑥1日300錠の“食事” ⑥本をちゃんと届けたい ⑥性を超え、結婚を超えて ⑥“自主カメラ”急増中
⑦栄養の謎に挑む研究者 ⑦長距離ドライブを相乗り