大転換 第12部 権利が変わる2

 「自分なりの葬式をしたい」「墓はつくらない」―。葬儀や埋葬の方法を、自分で考え選びたいという人が増えている。地域や寺、葬儀社などに任せ従うものだった“弔いのかたち”は、どう変ぼうしてゆくのだろうか。 

 「わたしのときは無宗教で。お墓より、樹木葬にしたいんですが…」。コープしずおか(静岡市)が毎週、開いている「お葬式の学習会」。担当者が最近の葬儀の傾向を説明し終えると、参加した会社員の女性(50)が切り出した。 

 元気で働き、すでに嫁いだ娘と、息子もいる。これまで葬儀の準備など思いもよらなかったが、今年、夫ががんを患ったことをきっかけに「自分のこともちゃんと考えておきたい」と向き合い始めた。「祭壇はいらない。でも赤いバラやピンクの花を飾って、好きなクラシックの曲を流してほしい」。墓石の代わりに木を植える樹木葬にするのは、墓を建てて「後々、子どもたちに負担をかけたくない」からだ。 

 同コープの葬祭事業担当、伊藤泉(いとう・いずみ)さんは「少し前まで、こういう学習会は『縁起でもない』とタブーだった。今は毎回、盛況で質問や意見がどんどん出るんです」。参加者は50~60代が中心。夫婦連れも珍しくない。

 こうした企画は、各地の自治体や葬儀社などが開き、定員を超え抽選になるケースも。一方、葬儀や埋葬方法などの希望も書き込める「エンディングノート」が広がり、書店に並ぶ。

 散骨や樹木葬への関心も高い。ある宗教法人が2006年、伊豆大島で樹木葬の専用墓地(288区画)を設けたとこ

最近の葬祭事情をテーマに甲府市内で開かれたセミナー(共同)

納得して死んでいきたい

セミナー盛況、生前予約も

トウ製のひつぎなどユニークな葬儀用品が並んだ展示会。「自分なりの葬式」にこだわる人が増えている=東京都町田市 (共同)

ろ、すでに約8割が契約済みで、うち6割強は生前予約だという。

 「世間体から型通りの葬儀や墓をつくるより、自分が納得できる方法を選びたいという思いを、ひしひしと感じる。死が個人化してきたんです」。葬祭事情に詳しい、日本葬祭アカデミー教務研究室の二村祐輔(ふたむら・ゆうすけ)代表はそう分析。少子化や厳しい家計も、寺や葬祭業者への“お任せ”を許さなくなっているとみる。 

 そうした傾向の一因となっているのが、葬儀や供養にまつわる金銭面での不透明さだ。 

 「無断でサービスを追加され、割高な請求書が届いた」「価格表も見せられず、言われるままに契約してしまった」。08年度、全国の消費生活センターに寄せられた葬儀サービスに関する相談は399件と、過去最多となった。 

 「説明を十分せずに形式的なサービスを提供してきた面もあり、結果的に葬式が劣化した」と二村代表は指摘。お布施

や戒名料の額などをめぐり、寺や檀家(だんか)制度への疑問の声も根強いという。 

 団塊世代を中心に、葬祭市場で物を言い始めたことも大きい。「個人としての生き方を重視し、無駄なことはしたくないという意識が強い」。家族とごく親しい人だけで行う「家族葬」の相談を受け付ける、都内の特定非営利活動法人(NPO法人)は説明する。

 定年退職後、故郷の山梨県南アルプス市に戻った矢崎和仁(やざき・かずひと)さん(66)も家族葬を考える一人。91歳になる母親は10年以上前から、地元のグループホームで暮らし、近隣とのつながりは薄れつつある。自身の現役時代からの付き合いも年々、限られてきた。 

 「特別こだわりのある葬儀をしたいわけではないんです」。地域の習慣もそれなりに大切にしたい、とは思う。「ただ心がこもった方法を模索しながら、来るべき時を迎えたい。死は自分のものですから」(野沢昭夫共同通信記者)


第1部 世界が変わる
第2部 生き方が変わる
第3部 日本人が変わる
第4部 資本主義が変わる
第5部 老いが変わる
第6部 働き方が変わる
①迷走する金融資本主義 ①見えてきた「生存」 ①ペンキ塗りの技伝える ①通貨暴落、住宅ローン倍に ①97歳の「出張授業」 ①海に生きる
②オバマに託す夢 ②「貧乏」を逆手に ②安い労働力、国外に求め ②「反資本主義」広がる支持 ②ボランティアで症状緩和 ②半農半X
③変革の裏側で ③女たちのルネサンス ③銀座に香港の「寿司王」 ③モノあふれ、価値観激変 ③バリアだらけで自立促す ③障害者の就労
④過熱した美術市場 ④「障害」を見つめる ④国籍捨て政治家目指す ④低価格車に誇り抱く ④ふれあう「命」支える ④派遣を超える
⑤砂漠の技術者 ⑤農村が都会動かす ⑤言葉の壁越え高校合格 ⑤大学起点に企業集団 ⑤技術が補う身体機能 ⑤面白法人でいく
⑥サムライ流多元主義 ⑥リアルを求めて ⑥ニューカマーが示す未来 ⑥目標捨てず、驚異の回復 ⑥山に生きる
⑦気付けば少数“先住民”
第7部 食が変わる
第8部 感覚が変わる
第9部 まつりごとが変わる
第10部 リサイクルが変わる
第11部 恋愛が変わる
第12部 権利が変わる
①中国ネット企業が養豚参入 ①体験と結び付き記憶に ①旋風過ぎ、残る重圧感 ①下水道から黄金取り出せ ①おせっかいかもしれないが ①裁判が認めた風景の価値
②資源も収入も減る一方 ②体震わす文脈なき歌詞 ②ネット選挙“加速”へ ②バイオ燃料、起点に循環 ②トラブル避けて出会い模索 ②納得して死んでいきたい
③「いただく」を実感 ③体との境界あいまいに ③投票率上がれ、学生奮起 ③鉱山技術で資源回収 ③わが子思い仲介に奔走 ③機関投資家の責任重く
④実態伝えぬ自給率 ④心の在りかの謎が再燃 ④初めて棄権、次は民主も ④大打撃の中古車ビジネス ④「光の出会い」幸せつかむ ④国際化の波、家族観にも
⑤捨てない努力が根付く ⑤想像し、深く感じ取る ⑤共感力失い政権転落 ⑤古民家を離島体験の拠点に ⑤彼女は画面に映るキャラ ⑤吹き荒れる逆風、でも…
⑥1日300錠の“食事” ⑥本をちゃんと届けたい ⑥性を超え、結婚を超えて ⑥“自主カメラ”急増中
⑦栄養の謎に挑む研究者 ⑦長距離ドライブを相乗り