大転換 第5部 リサイクルが変わる5

 長崎・佐世保港からフェリーで3時間、豊かな自然に恵まれた五島列島の小値賀(おぢか)島。夕方になれば、おばあさんらが家々からさおを手に港へ集まり、アジを釣っておかずにする。自給自足の生活スタイルが生きる島で、朽ちかけた古民家を体験型観光の拠点として再生させる事業が始まった。過疎に悩む離島を、生き返らせる挑戦でもある。 

 17世紀から捕鯨を始め、関西への海産物出荷で隆盛を極めた島には江戸時代以来の古民家が100棟余り残る。幕末に建った網元「藤松家」屋敷は延べ床面積約458平方メートル。黒光りする太さ50センチもの梁(はり)が走り、曲がりくねる松材の力強い骨組みが見る者を圧倒する。 
 キョウチクトウやツバキが茂る庭から小道を進むとはるか昔、遣唐使船や中国の貿易船が行き交った湾が広がる。小さな波止場でさざ波がやわらかな音を立てていた。 

 「なんて神秘的なんだ」。米国出身の東洋文化研究家、アレックス・カーさんは初めて訪れた時、驚嘆の声を漏らしたという。京都の町屋再生を成功させ、今回の事業をプロデュースする。 

「藤松家」屋敷の庭の小道を抜けると、かつて遣唐使船が行き交った湾が広がっていた=長崎県・小値賀島(共同)

古民家を離島体験の拠点に

過疎からの再生へ挑戦

「古民家は使ってこそ魅力が輝き、後世に伝えていける」と話す高砂樹史さん=長崎県・小値賀島の「藤松家」屋敷(共同)

 「昔の間取りを大事にしながら、空調や水回りを整備し、快適に過ごせるようにしたい」 

 土間や吹き抜け、梁をそのまま生かし、1階がレストラン、2階はバーに。イメージを具体化する建築士黒木裕行(くろき・ひろゆき)さんは「150年以上も前に、洗練されたデザインが施されている。小細工はいらない」と話す。代官屋敷など3棟の古民家も滞在施設に造り替え、来年7月にも営業を始める。 

 「手をこまねいていたら無人島になる。なんとかしないと」。町とともに事業を進める小値賀観光まちづくり公社の専務高砂樹史(たかさご・たつし)さん(43)は危機感を訴える。漁業の不振などで過疎化が進行、最大約1万2千人いた人口は4分の1に激減した。 

 観光を新たな産業に育てようと、農家や漁師の家にホームステイし、収穫や水揚げを体験する「民泊」を2005年に本格的に始めた。シーカヤックや郷土料理作りなどプログラムを充実させ、修学旅行生らを中心に08年の宿泊者数は従来の2倍の約1万人に上った。 

 しかし、大人の個人旅行客は伸び悩む。高砂さんは「民泊は、プライバシーが十分に守られないのが限界だった。古民家に滞在してもらえば、大人が求めるくつろぎも得られる」と話す。 

 成功を疑問視する声も島民にはある。しかし、カーさんは「ここまで不便で何もない田舎には大きな冒険だが、地中海でも東南アジアでも、成功例がある。日本では誰も試みたことがなかったというだけだ」と言う。 

 島は10月9日から約2週間も続く秋祭りを迎えた。日替わりで地区ごとにごちそうを振る舞う「お呼ばれ」が習わしで、

「無礼講よ!」。秋祭りを迎え、島ならではの料理を並べて客をもてなす増元輝利さん(中央)ら=長崎県・小値賀島(共同)

「飲みっ放しで胃薬が必要」と言われるほどだ。 

 島の中央部、中村地区の元郵便局員増元輝利(ますもと・てるとし)さん(66)宅でも、サバやヒラマサの押しずしや刺し身が食卓にあふれるほど並んだ。島内であった国際音楽祭の出演者や近所の学校の先生が次々に来て、酒を酌み交わす。 

 妻の洋子(ようこ)さん(65)が「どんな仕事、どんな学歴も関係ない。和気あいあい、無礼講が楽しい」と顔をほころばせた。 

 漁業の繁栄で人が押し寄せた歴史を持つ島には、今も外からの客をもてなす気風が残る。「海は何の隔てもなく世界とつながっている。穏やかでオープンな人々が島の魅力だ」とカーさん。高砂さんは「人を感動させられるのはやはり人だ。古民家での滞在が、その土台になる」と話している。(若松亮太共同通信記者)


第1部 世界が変わる
第2部 生き方が変わる
第3部 日本人が変わる
第4部 資本主義が変わる
第5部 老いが変わる
第6部 働き方が変わる
①迷走する金融資本主義 ①見えてきた「生存」 ①ペンキ塗りの技伝える ①通貨暴落、住宅ローン倍に ①97歳の「出張授業」 ①海に生きる
②オバマに託す夢 ②「貧乏」を逆手に ②安い労働力、国外に求め ②「反資本主義」広がる支持 ②ボランティアで症状緩和 ②半農半X
③変革の裏側で ③女たちのルネサンス ③銀座に香港の「寿司王」 ③モノあふれ、価値観激変 ③バリアだらけで自立促す ③障害者の就労
④過熱した美術市場 ④「障害」を見つめる ④国籍捨て政治家目指す ④低価格車に誇り抱く ④ふれあう「命」支える ④派遣を超える
⑤砂漠の技術者 ⑤農村が都会動かす ⑤言葉の壁越え高校合格 ⑤大学起点に企業集団 ⑤技術が補う身体機能 ⑤面白法人でいく
⑥サムライ流多元主義 ⑥リアルを求めて ⑥ニューカマーが示す未来 ⑥目標捨てず、驚異の回復 ⑥山に生きる
⑦気付けば少数“先住民”
第7部 食が変わる
第8部 感覚が変わる
第9部 まつりごとが変わる
第10部 リサイクルが変わる
第11部 恋愛が変わる
第12部 権利が変わる
①中国ネット企業が養豚参入 ①体験と結び付き記憶に ①旋風過ぎ、残る重圧感 ①下水道から黄金取り出せ ①おせっかいかもしれないが ①裁判が認めた風景の価値
②資源も収入も減る一方 ②体震わす文脈なき歌詞 ②ネット選挙“加速”へ ②バイオ燃料、起点に循環 ②トラブル避けて出会い模索 ②納得して死んでいきたい
③「いただく」を実感 ③体との境界あいまいに ③投票率上がれ、学生奮起 ③鉱山技術で資源回収 ③わが子思い仲介に奔走 ③機関投資家の責任重く
④実態伝えぬ自給率 ④心の在りかの謎が再燃 ④初めて棄権、次は民主も ④大打撃の中古車ビジネス ④「光の出会い」幸せつかむ ④国際化の波、家族観にも
⑤捨てない努力が根付く ⑤想像し、深く感じ取る ⑤共感力失い政権転落 ⑤古民家を離島体験の拠点に ⑤彼女は画面に映るキャラ ⑤吹き荒れる逆風、でも…
⑥1日300錠の“食事” ⑥本をちゃんと届けたい ⑥性を超え、結婚を超えて ⑥“自主カメラ”急増中
⑦栄養の謎に挑む研究者 ⑦長距離ドライブを相乗り