カジノのネオンがきらめくマカオ。二〇〇八年十一月二十八日、アジアの現代美術を売買する「アジアン・オークション・ウイーク」が開かれた。主催したのは日本、韓国、台湾のオークション(競売)会社。入札が始まると会場のスクリーンの価格が瞬く間に変わり、落札額が決まっていった。
ここ数年、美術品市場で焦点になっていたのは中国の現代アートだ。一億円を超える作品が相次ぎ、〇七年秋には香港のオークションで十億円を超える作品が現れた。
「中国の作品は投資目的で買っている」。日中韓の作品を二年間で約四百五十点集めた韓国の実業家(48)はこう打ち明ける。
「十九世紀のパリ、ウィーン、二十世紀のニューヨーク。芸術の都は覇権とともにある」。そう語るシンワアートオークション(東京)の倉田陽一郎(くらた・よういちろう)社長は、「二十一世紀は中国の時代」との思いが美術品市場に投影されたとみる。
しかしマカオでの人気は振るわなかった。世界を覆う金融危機が打撃を与えた。中国で増え続ける富裕層、欧米のコレクター、華僑の投資家らが殺到した美術品市場の「チャイナ・バブル」は幕を閉じようとしている。
中国の現代美術には、文化大革命などの政治的な動きを取り上げた作品が多い。美術関係者によると、反体制色が強い作品の展示は中止に追い込まれることがあるという。
「政治的な抑圧が、独自の風刺や高度な創造性を生む一つの要素になった」。ニューヨークの美術コンサルタント、ビバリー・ジャコビーさんはこう分析している。

資生堂はメセナの一環として、火薬を紙の上で爆発させる作品で中国アートの第一人者となった蔡国強(さい・こっきょう)さん(51)を約十四年前から支援してきた。「火薬で描くという前代未聞の発想に可能性を感じた」(企業文化部の樋口昌樹(ひぐち・まさき)参事)のが理由だ。
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作品が飛ぶように売れた中国の芸術家の生活は様変わりした。高級車を何台も持ち、レストランを経営している作家もいる。
「どんな絵を描けば売れるのか」。日本から北京に進出した画廊には、超難関の「中央美術学院」の学生らが相談に訪れる。日本の人気画家とそっくりな絵を描いて売り込みに来た例もあった。
総合美術研究所の瀬木慎一(せぎ・しんいち)所長は「中国ではオークション会社ばかり乱立している。最近のブームは蜃気楼(しんきろう)みたいなものだ」と手厳しい。上海や新潟県柏崎市などで創作活動をしている日本画家の水野竜生(みずの・りゅうせい)さんも「拝金主義で大事なものを忘れている」とみている。
古い民家が集まる北京の下町、胡同(フートン)で育った宋冬(そう・とう)さん(42)は、庶民の暮らしから着想した空間芸術などでファンを増やし、〇九年六月にはニューヨーク近代美術館(MoMA)で個展を開く。
宋冬さんは中国アートの将来をそれほど心配していない。「注目されすぎたことでバブルが生まれた。経済危機を経ることで本物だけが残るはずだ」(小林輝彦共同記者)


