47NEWS > 47トピックス > 子どものいま 未来 > 感情を表現、笑顔取り戻す 病気の子に学びの場を

(5)「院内学級」

感情を表現、笑顔取り戻す 病気の子に学びの場を

廊下で子どもを抱っこして話を聞く副島賢和さん=東京都品川区の昭和大病院廊下で子どもを抱っこして話を聞く副島賢和さん=東京都品川区の昭和大病院

 病院の一室とは思えない。大きく切り取られた明るい窓。絵本やおもちゃ、ブロックが所狭しと置かれている。「さいかち学級」は東京都品川区の昭和大病院入院棟、最上階にある。入院中の子どもが学ぶ院内学級だ。そこで 副島賢和 (そえじま・まさかず)さんに会った。副島さんは2006年に「さいかち」の担任になった。

 

▽居場所

 「院内学級と言うと長期入院の子をイメージしますが、ここに来る子の多くは6日程度の入院で、教室に通うのはせいぜい3~5日です」

 それなら無理に勉強しなくてもいいのでは?

 「逆に『元気でなければ勉強しちゃいけないのか』と聞きたい。病気の子たちは、家族を心配させ迷惑をかけていると思い、自分は駄目だとか役に立たないと考えがちです。でも決してそんなことはない。入院中でも楽しい時間を過ごせるし、新しいことに挑戦することもできる。ここでそんな経験をしてほしい」

 短時間でどうやって信頼関係を築くのだろう。

 「まず病棟を歩いて声をかけ顔見知りになる。『実はこの上に学校があるんだけど』と話して知ってもらい、僕はいつでも待ってるよと。そうやってここに来た子が、最初にやるのは他の子を傷つけること。他の子が勉強しているのを見て『簡単じゃん、そんなこともできないの』と自分の優位性を示そうとする」

 なぜですか?

 「病気の子たちは自分の居場所はどこにもないのではないかと、おびえている。優位に立って居場所を確保したい。だから僕は初めに『先生はあなたたちを比べない』と伝えます。ここは安心で安全な場所なんだと」

 

▽受容的

 そうして閉じ込めている感情を吐き出させる。だから教室の空気は徹底して受容的だ。

 「感情は一種のエネルギーです。自分の感情を無理に抑えつけるとエネルギーが失われる。病気を治すエネルギー、生きていくエネルギーを高めるためには、感情を出してもいいということを分からせてあげる必要があります」。子どもたちは笑顔を取り戻し、感情を素直に表現し始める。

副島賢和さんが子どもたちの言葉を書き留めたカード。その子自身に書いてもらったものもある=東京都品川区の昭和大病院副島賢和さんが子どもたちの言葉を書き留めたカード。その子自身に書いてもらったものもある=東京都品川区の昭和大病院

 入院当時小6の少年の「ぼくは幸せ」という詩。
 「お家にいられれば幸せ/ごはんが食べられれば幸せ/空がきれいだと幸せ//みんなが/幸せと思わないことも/幸せに思えるから//ぼくのまわりには/幸せがいっぱいあるんだよ」

 病気だからこそ見つけられる幸せもある。この詩を書いた1カ月後、少年は再入院し亡くなった。

病院で心のケアをする道化師「ホスピタルクラウン」の赤い鼻をつけて講演する副島賢和さん(提供写真)病院で心のケアをする道化師「ホスピタルクラウン」の赤い鼻をつけて講演する副島賢和さん(提供写真)

 「ここの子どもたちは特別ではありません。体は健康でも心が傷ついている子はたくさんいる。そうした子にとって学ぶことは大きなチャンスです。自分を見つめ、好きなことや得意なことに取り組むようになれれば、自分はやれるんだと実感できます」

 院内学級だからこそ追求できる学びの原点。「もう一つの学校」がここにあった。

つらい気持ち受け止める 病院でも幸せになれる 

 1学期最後の朝、教室に小2のA君と小3のB君がやって来た。頭をくっつけるようにして、仲良くアイロンビーズと呼ばれる飾り作りに取り組んでいる。B君は今日が退院。10時前、みんなに送られてエレベーターに乗った。アイロンビーズの飛行機はB君の退院祝いになった。

 残されたA君が廊下で副島さんに飛びつき、抱っこしてもらって話している。甘やかしていると見えなくもない。

 昼休み、副島さんがぽつりと漏らした。「A君は入退院を繰り返していてもう3年ぐらいの付き合い。何人もの友達の退院を見送って本当に寂しいと思う。病気に対しても自分でもどうしていいか分からないんだと思います」。つらい気持ちを受け止めていたのだ。

 午後の工作の時間。手製のびっくり箱を作るはずが、A君は最後のところでうまくいかず「あきらめた!」と叫ぶ。別の箱を作っていた副島さんが「あきらめちゃうのか。そりゃあ、あきらめるのも大事だけどさ」と静かに語りかける。A君が急に大人びた口調でつぶやいた。「あきらめないと生きていけないんだよ」

 副島さんはもともと熱血教師だったが、29歳のとき肺の病気になり入退院を繰り返した。入院中、ある少年について看護師から「あの子は一生病院から出られない」と聞く。「それまでは『病院の中が不幸、病院の外が幸せ』と思っていた。でもそれならあの少年はずっと幸せになれない。病院の中にだって幸せになる方法があるはずだ」。そう気付いたと話す。

公教育の病

 病気で体力も気力も衰えた子と、せいぜい1週間、付き合ったとして何ができるのか。そんな先入観は打ち砕かれた。
 教室に来る前から働きかけ、来たら子どもの発信する全てを読み取ろうとする。ゆったりと楽しい教室なのに、先生は真剣勝負だった。
 子どもを比べない。負の感情も吐き出させる。今の公教育の対極だ。さいかち学級は公教育の病を逆照射する。ここで体と心を回復した子どもたちが、戻った学校でまた傷つかないでほしいと願わずにはいられなかった。(文と写真、共同通信編集委員・佐々木央)=2015年7月取材