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(2)みんなの学校

障害も個性、誰もが一緒 失敗もトラブルも学びに 

ワークショップの参加者に「子どもに信頼される大人って?」と問い掛ける木村泰子さん=秋田市ワークショップの参加者に「子どもに信頼される大人って?」と問い掛ける木村泰子さん=秋田市

 映画「みんなの学校」を見て奇跡だと思った。大阪市立大空小学校は、特別支援教育の対象とされる子も分離しない。学校から度々脱走を図る子もいつの間にか安心して教室にいる。不登校はゼロ。何より子どもたちが生き生きと学んでいる。

 2006年の開校から9年間校長を務めた木村泰子さんは「当たり前のことを当たり前に、みんなで取り組んできただけです」と話す。それなら全国どこでも“大空小”がつくれるのだろうか。

 

▽あしたにでも

 大空小には校則もマニュアルもない。あるのは「自分にされていやなことは、人にしない、言わない」という「たった一つの約束」だ。守れなかったら校長室、別名「やり直しの部屋」に来る。待っているのは罰でも説教でもない。自分で何がどう間違っていたのか、どう解決するかを宣言し、居場所に帰っていく。

 「失敗やトラブルは学びの機会です。たったひとつの約束をみんなが大事にすれば、みんなの学校はあしたにでも、どこででもつくれます」

 6年の春に転校してきたヒロはそれまで不登校で、発達障害と診断され服薬していた。4月1日朝、木村さんは多目的室にいたヒロと偶然出会う。校長とは思わず、彼は自分のことを打ち明ける。ひどいいじめを受けていたこと、市内300の小学校全部のホームページを調べ、大空に行きたいと親に頼んだこと、それは「たった一つの約束」があったからだと。

大阪市立大空小学校=大阪市住吉区大阪市立大空小学校=大阪市住吉区

 ヒロは大空では1日も休まず卒業した。

 でも校則なしで規律は維持できるのだろうか? 答えは意外だった。「校則が学校に行けない子どもをつくり出す。教師は見なくてはいけないものが見えなくなります」

 例えば「学校に必要ないものを持ってきてはいけない」という校則。「学校にお母さんの財布を持ってきた子がいた。校則からは『そんなの持ってきたらあかん』と指導することになる」

 だが実はその朝、両親がけんかして父親が母親を殴り、母親が財布も持たずに飛び出した。その子は急いでランドセルに財布を入れて来た。お母さんが困って学校に来たら財布が渡せると思ったのだ。「校則がなければ何で財布を持ってきたんだろうと思う。そして聞く。校則は子どもに向き合う機会を失わせます」

 

▽その子らしく


 大空の理念は「すべての子どもの学習権を保障すること」。かみ砕けば「どんな子もその子らしくいられること」だという。それは排除や分断の上には成立しない。重い障害とされる子を含め、多様な個性の子どもが一緒に学ぶ。トラブルも起きる。「でもそれを学びに変えればいい。障害があるから別の教室にというのは人権侵害であるとともに、他の子たちの学びの機会を奪っています」

 こうして育った大空の卒業生が中学で出会うのは悲しい現実だ。大空で一緒に学んだ発達障害の子らに対して、他校から来た生徒が「生きている価値ないんとちゃう」と平気で話す。

 大空の子は何でそんな発想をするのかと不思議がる。頭より体で感じる時期に多様な子どものいる環境で学ぶことが絶対に必要です。そして違う個性を持つ人を尊重し、関わっていく方法を自然と体に染みこませてほしい」

徹底して開き、協働する

 秋の運動会が近づくころ、大空小を訪ねた。
 朝、教職員だけでなく、地域の人も登校する子どもに声をかけている。校舎に入ると、教室は透明ガラス、中がすっかり見える。お母さんたちも地域の人も、授業中でも教室後方のドアを開けて自由に出入りしている。

 休み時間、図書室で本を読んでいた1年の男の子が授業再開の時間になって騒ぎだした。読みかけの電車の本を放さず、教室に戻ろうとしない。高学年の女子も来て説得するが、体をじたばたさせて抵抗している。

 「図書レンジャー」と呼ばれるボランティアの女性が「持って行っていいよ、貸出登録するから。その代わり、授業はちゃんとがんばるんだよ」となだめて落ち着かせた。
 大空小は評判が広がり北海道から転居して通う子までいて、今では280人中50人が特別支援教育の対象とされる子どもたちだ。教職員だけでなく地域の大人も一緒になって学校を支えている。

 木村泰子さんは学校も学級も徹底的に開いた。「多くの学校は異論が出ることを恐れて、保護者や地域を学校の外に追いやろうとしている。そこで生まれるのは、校内で何が行われているんだろうかという疑心暗鬼です。それが根底にあるから保護者のモンスター化が起こる」と話す。

 「何でも見せて、協力してもらう。間違えたら素直に謝り『また間違えたら教えてな』と言えばいいんです」
 保護者にも、自分の子だけの保護者という立場を捨てて学校全体のサポーターとなるよう求めた。排除や分断をせず、開示し、共に動く。教育の方法だけでなく学校運営にも、それは貫徹されていた。

お話、終わり

 大空小の月曜1時間目は「全校道徳」。予告なしで出された課題を1年から6年までの縦割りのチームで考え、発表する。大人も考えを言う。終わると、みんながそれぞれの思いを書く。
 月曜の朝会はもともと校長講話だった。夏の暑い日、木村泰子さんが話していると2年の男児が突然「校長先生、おしまい」。さらに「暑い!お話、終わり」「お風呂に入りたい」と追撃した。
 木村さんは「本当に思ったことを言える子こそ学びのリーダーです」と言い切る。その姿勢にこそ学ぶべきだと思った。

教育の神様

 木村泰子さんの原点の一つは、教育実習での指導教官との出会いだ。彼のクラスは、課題を出すとみんな自由に意見を出し合い、話し合って進める。日ごろからそういう主体的な学び方を指導していたからだ。
 道徳の授業では先生が紙を破ってまき散らした。「掃除してくれる」と言うと、子どもたちがあっという間にきれいにする。課題は「それなのにどうしてふだんの掃除はきちんとできないのか」。子どもたちの真剣な議論が始まる。彼は同僚から「教育の神様」と呼ばれていた。
(文と写真、共同通信編集委員・佐々木央)=2016年10月配信