47NEWS >  47トピックス >  これで生きる >  過疎地巡る「おつかい便」 22歳女性、在学中に起業  お年寄り見守る存在に

過疎地巡る「おつかい便」
22歳女性、在学中に起業 お年寄り見守る存在に

#18移動販売

2013.08.26

過疎地巡る「おつかい便」 22歳女性、在学中に起業  お年寄り見守る存在に
訪れた集落で総菜や弁当などを車の脇に並べた東真央。客の多くはお年寄りだ=三重県紀北町(撮影・堀誠)

訪れた集落で総菜や弁当などを車の脇に並べた東真央。客の多くはお年寄りだ=三重県紀北町(撮影・堀誠)

移動販売に向かう東真央の車。海と山が入り組んだ美しい風景が広がる=三重県紀北町(撮影・堀誠)

移動販売に向かう東真央の車。海と山が入り組んだ美しい風景が広がる=三重県紀北町(撮影・堀誠)

 熊野灘に面した三重県南部の紀北町。森が背後に迫る集落を、白い軽トラックがゆっくりと走る。車体には「まおちゃんのおつかい便」の文字。スピーカーから松任谷由実の「ルージュの伝言」が軽やかに流れる。空き地に止まると、近所のお年寄りの女性が一人、また一人と集まってきた。
 
▽ありがとう
 「おっはよー。今日は寒いな、おばちゃん」。運転席から降りた東真央(22)が総菜や弁当、果物が入ったケースを荷台から取り出し、車の脇に手際良く並べていく。パーカに細身のジーンズ。栗色(くりいろ)の長い髪が風になびく。「大福餅はあるかな」「ああ、持っとるよ」。品物を両手で女性に渡し、目を見て「ありがとう」と伝えた。
 東が両親、弟と暮らす紀北町で移動販売を始めたのは、大学3年だった昨年2月。今春に大学を卒業した後も、職業として続ける道を選んだ。
 その一日は慌ただしい。午前7時には事務所に出て、冷蔵庫から食品を車に積み込む。その後、卸売業者を回り、パック入りの煮物やフライなど売れそうな商品を選んでは購入していく。
 午前8時すぎ、港に立ち寄り、水揚げされた魚の競りに集まった人たちに販売。終わると山あいの集落やデイサービスの施設に向かう。日によってルートを変え、一日に15カ所ほどを回る。
 客の多くは過疎化が進む集落のお年寄りだ。休みは日曜日だけ。風雨が強くても出掛けていく。「来るのを待ってくれている人がおる。勝手に休まれへん」。外で長時間待つ日もあり、真冬は練炭こんろで暖を取る。
 
▽直感
 実家から電車で片道2時間以上かけて通い続けた大学生活。専攻した文学部の授業を面白いとは思えなかった。3年生になり就職活動の時期が迫っても、何が自分に合う仕事か、ぴんと来ない。ただ「接客に向いているのでは」との漠然とした思いはあった。「コンビニでアルバイトした時、お客さんとの何げない会話が楽しかったから」
 そんな時、ニュース番組で、過疎地域で買い物に不自由するお年寄りが移動販売を利用している姿を目にした。すぐに祖母政子(83)のことが頭に浮かんだ。長い距離を歩けず、よく車で買い物に連れて行っていた。
 スーパーに行くのが大変なお年寄りが、紀北町にもたくさんいる。「私の仕事はこれやと思った。直感やった」
 自称「せっかち」の東の動きは早かった。家族の支援を受け、早速中古のトラックを購入。食品を扱う資格を取り、仕入れ先の算段を付けた。
 最初は、飛び込みで訪れた民家で警戒され「要らん、要らん」と即座に断られた。「売れ残りも多かったから、かなり落ち込んだんじゃないか。でも、弱音は吐かなかったな」。東を後押ししてきた漁師の父美治(58)は言う。
 評判は少しずつ口コミで広がった。交通の便が悪い地区で、夫と2人暮らしの大西令子(82)は週3回は利用する。「以前は工事のダンプが行き来する道を25分かけてスーパーまで歩いていた。最近は欲しい物を電話で頼む。うんと助かっている」
 意外だったのは、近所にスーパーがある町中心部でも同じように買ってくれること。「わずかな距離でも、歩いて行けへん人がたくさんおる」
 固定客もできた。でも、同じ商品ばかりだと飽きられてしまうのではないかと心配は尽きない。「当面の目標は新たな商品の仕入れと、販売地域の拡大」。将来を見据え、そう口にする。
 
▽内緒話
 2005年の合併時に2万人を超えていた紀北町の人口は約1万8千人まで減少。65歳以上の割合が4割に迫り、全国平均を大きく上回る。
 空き家が目立つ集落で、東は仕事の枠を超えてお年寄りの手助けもする。洗濯物を干したり、家に上がってストーブの灯油を入れたり。「誰にも言えないから」と、内緒話を打ち明けられることもある。
 「仕事を続けるうちに、買い物だけではなく、私と会うのを楽しみにしてくれている人たちがおるのが分かった。それが、すごくうれしい」
 過疎化の流れは東の世代も無関係ではない。町で唯一の高校は3年前に閉校。町内に出産できる病院はなく、町民は周辺の尾鷲市や松阪市まで出向くことになる。仕事も限られ、故郷を離れた同級生は多い。
 都会の暮らしに憧れはないのか。東にそう問うと、こんな答えが返ってきた。
 「少しはあるけど、今は自分が必要とされていると感じている。この土地は人柄がいいし、家族もいる。外に出てもすぐに寂しくなると思うな」
(敬称略、文・松竹維、写真・堀誠)
 ◎買い物難民  農林水産省の農林水産政策研究所が2012年に公表した推計によると、スーパーなど生鮮食料品店が自宅から500メートル以上離れている上、車を持たない「買い物難民」は全国で約910万人に上る。このうち65歳以上の高齢者は約350万人と約4割を占める。  東京、大阪、名古屋の三大都市圏でも買い物難民は約420万人。同研究所は「郊外で暮らす子育て世代も不便さを感じている」と分析する。  解決策の一つとして期待されるのが移動販売だが、人口減に悩む過疎地の現状は厳しい。高橋克也(たかはし・かつや)主任研究官は「採算が取れないことが多く、行政がいかに支援できるかが課題」と指摘する。  経済産業省は、買い物難民のため移動販売や宅配を手掛ける事業者を対象に12年度補正予算に補助金10億円を計上した。
Back Number