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避難所運営を模擬体験 震災でも効果 防災ゲーム『避難所HUG』 静岡県西部危機管理局 危機管理課長 倉野康彦

2013/06/10/ 05:00

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 避難所HUG(ハグ、以下「HUG」と表記)は、避難所運営を考えるためのひとつの手法として、静岡県が2007年度に開発した避難所運営を模擬体験するゲームです。

 HUGは、H(hinanzyo避難所)、U(unei運営)、G(gameゲーム)の頭文字を取ったもので、英語で「抱きしめる」という意味です。避難者を優しく受け入れる避難所のイメージと重ね合わせて名付けました。

 2009年度末には、ゲームパッケージとして製品化され、2010年度末には、「避難所HUG」の名称で静岡県の商標として登録されました。現在、全国の自主防災組織やボランティア団体、学校職員、市町村職員、福祉関係者、学生、国際交流団体など幅広い層に普及しつつあります。

  東日本大震災では、震災前にHUGを体験していたことで、妊婦やお年寄りなど様々な事情を抱える人たちに落ち着いて対応できたという例がありました。このように、実災害で具体的な成果が得られています。



▽避難者殺到を想定



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HUG体験会風景

 大地震等の大災害が発生すると、被災した多数の人々が避難所に押し寄せて来ます。赤ちゃん、超高齢者、車いすの人、目や耳の不自由な人、寝たきりの人、深刻な持病のある人、インフルエンザの疑いのある人、妊婦さん、外国人・・・年齢、性別、国籍も異なる人々それぞれが、様々な事情を抱えて避難してくる可能性があります。車で避難してくる人も大勢います。災害直後の混乱の中で、これらの人々に避難所のどこに腰を下ろしてもらえばよいのでしょう。

 避難所運営には、避難者対応の他に、炊き出し場や着替え場所をどうするか、食糧や水をどこに置きどう配布するか、マスコミの取材にどう対応するか、ボランティアの受け入れをどうするか・・・など同時並行で処理すべき課題が山ほどあります。

 避難所を開設する時に、もし何も手を打たなければ、殺到した避難者は避難所となる学校の体育館や教室に無秩序に場所を取り、結果として誰が何人避難してきているかさえ分からないような状態になってしまいます。こうした事態を避けるために、県や市町村では避難所運営マニュアルを作成し、自主防災組織や避難者自身が避難所を運営をするよう定めています。

 しかし、マニュアルは読むとその時は分かったような気になりますが、読んだだけでは身につかないものです。停電の暗闇の中でマニュアルを捜し、明かりを灯して読んでいる時間があるかどうかわかりません。できればいざその時にどう行動したらよいか、自然と行動できるようにしておきたいものです。

 特に巨大災害の場合、平常時に地域で頼りにしているリーダー的存在の人が無事とは限りません。従って、その時その場に居合わせた人が、時刻や天気、ライフラインの状況、避難所周辺の被害状況等、現場の条件に合わせて、臨機応変に、かつ即断即決で対応しなければなりません。

 HUGは、避難所のこのような状況を図上で再現し、避難者の配置や炊き出し場などの空間配置、出来事への対応等を実際にやってみる、つまり避難所運営を模擬体験できる仕組みです。

 当初は自主防災組織用のゲームとして開発したものですが、実は避難所に派遣される行政職員のプレッシャーはとても大きく、むしろ行政職員にこそ取り入れてほしいと考えています。



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作業所の方によるゲーム制作の様子

▽マニュアル補うツールに



 2007年3月に能登半島地震が、また7月には中越沖地震が発生しましたが、これらの地震で避難所運営や災害時要援護者対策がクローズアップされました。 

 また、ちょうどこの頃、静岡県の避難所運営マニュアルが改訂されましたが、マニュアルだけでは動的形態としての避難所運営はよくわからないことがあります。どこかに避難所運営を学ぶことができる良い教材はないかと探しましたが、なかなか良いものが見つかりませんでした。

 そこで、それまでに学んできたDIG(災害図上訓練)やクロスロードなどのワークショップ、ロールプレーイング訓練などの図上訓練の手法を参考にして、カードや図面、大量の付与情報を使って避難所運営をゲーム感覚で模擬体験できるソフトの開発に挑戦することにしました。

 ゲームの基本構想を練った後、試作品を作り、市町村の防災担当職員を対象にテストランを10回ほど行いながら改良を続け、さらにいくつかの自主防災組織を対象に実施し、約1年間かけてほぼ完成に至りました。なお、その後、思いもかけず授産所製品として販売することになり、さらに1年ほどかけて、販売に耐えられるレベルまで完成度を高めました。



▽ロールプレーイングで臨場感



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7人程度のグループで実施

 このゲームは、カードと図面、掲示板を使ったゲームで、7人1組程度のグループを複数つくり、ワークショップ形式で行います。各グループでは、1人がカードの読み上げ係、残りの6人がプレーヤーとなります。

 ゲームでは、「避難者カード」と「イベントカード」の2種類を使用します。カードの他に、避難所となる小学校の敷地図や体育館、教室などの図面が必要になりますが、これらは取扱説明書からコピーして準備します。 

 避難者カードは、避難者一人当たりの面積(3平方メートル)を表しており、避難者の住所、班(組)、年齢、性別、自宅の状況、家族構成、それぞれが抱える事情が特記事項として記載されています。プレーヤーは、このカードをそれぞれの事情に考慮しながら、避難所の体育館や教室の図面に配置していきます。

 イベントカードには、炊き出し場や喫煙所などの空間配置や、トイレ、視察、取材対応などに関する出来事が記載されており、プレーヤーはその内容に応じて対応策を考えます。その結果を掲示板にお知らせとして張り出し、避難所のどこを何に使うかといった空間配置を考え、敷地図に記入していきます。

 これらはカードの事例です。

 
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 このような避難者が来たとき、避難所のどこに腰を下ろしてもらえばよいでしょう。また、このような出来事や連絡があったとき、どう対応すればよいのでしょうか。

 プレーヤーは、ゲームを通じて、災害時要援護者に配慮しつつ、避難所には何人くらい収容できるか、仮設トイレなどの設置にどれくらいのスペースが必要か、次々と発生する出来事にどう対応すればよいかなどについて、思いのままに意見を出しあったり、話し合ったりしながらゲーム感覚で避難所の運営を学んでいきます。


▽模擬体験で学習効果



 一般的に防災訓練はあまり楽しいものではありませんが、貴重な時間を割いて参加して下さる皆様の満足度、いわゆる顧客満足度を高めるため、ゲームの設計にあたって最も重視したのは「楽しい」ゲームにすることです。そのために下記のような工夫をしてあります。

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掲示板にお知らせを張り出す
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敷地図に利用計画を書き込む

・ネーミングを「訓練」ではなく「ゲーム」とし、気軽に参加できるようにした
・ゲーム前のアイスブレーキングで参加者の心をほぐす
・参加者が緊張しないよう、司会者や書記、発表者など役割を決めない
・自由な発想で取り組めるよう、ファシリテーターは指導的発言をしない
・同姓の人が被災するという心理的負担を軽減するため、避難者の名前は防災用語に
・ゲーム中に手持ち無沙汰な人が出ないよう、プレーヤーの最適人数を推奨する


 これらの工夫により、参加者はゲームの開始時から終了までの間、ほとんど立ったままの状態で活発に活動します。その結果、ゲームの感想として、楽しかった、充実していた、あっという間に終わってしまった等の感想をいただいています。

 次に目標としたのは、もちろん本番で実際に役立つものにすることです。そのためには、記憶に残りやすくする必要があります。一般的に、講演会等で話を聞くだけよりは、体験をする方が学習効果が高いとされています。

 

 HUGは、基本的に学習効果が高いはずですが、会議室のような静かな環境で話し合いながら避難者の配置や空間利用を決めるのではなく、本番さながらの臨場感もいっしょに体験できるよう、次のように工夫しています。

・カードをプレーヤーの対応能力をやや超えるスピードで読み上げ切迫感を出す
・イベントカードで示される出来事への対応を即決し、掲示板に張り出す
・敷地図の縮尺に合わせ、炊き出し場や更衣場所などの配置を正確なサイズで記入する
・会場に読み上げの声やプレーヤーの声、ざわめきが充満するようにして、避難所の熱気や喧噪の雰囲気を感じられるようにする
・できるだけ多くの事例に当たり想定外を減らす
・すべてのことに対して間をあけずに、即断即決で対応する


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ゲーム後のまとめ

 もうひとつ目標にしたのは、普及のしやすさです。そのために、誰でも簡単に参加でき、一度ゲームを経験したら、防災知識がなくても次は自分で主催することができるように設計しました。防災講座やワークショップを実施する場合、ある程度の知識・経験がないと企画・運営することが難しいという問題がありますが、誰でも安心して実施できるよう、下記のように、準備からゲームの説明、運営、まとめの方法までをトータルに提案しています。

・付属CDに入っているパワーポイントの説明シナリオを読めば、誰でも実施できる
・カードの読み上げペースに従って自動的にゲームを進行させる
・グループ単位で疑問点や感想を書き出し、それを基にグループ間で疑問点を討論、ゲーム後のまとめとする
・参加者の感想や掲示板に張り出された用紙、図面をまとめたものにゲーム中の写真を添え、報告書を作成する



▽体験者の声


 

 以上のような工夫が実り、ゲーム体験者からは以下のような感想が寄せらせています。

<模擬体験、臨場感に関する感想>

・ゲームなのにパニックになった
・短い時間で即断即決することの難しさを痛感した
・グループで意見を交わしながら行うと臨場感もあり、実際この立場になった時の心構えとポイントを学ぶことができた
・避難所の混乱する姿がイメージできた

<避難者、避難所運営についての感想>

・トイレ、ペット対応のことが心に残った
・要援護者支援の難しさを知ることができた
・ゲームの中の避難者は何も言わないが、実際のときはいろいろな苦情を言われるだろう
・災害時に避難所で活動している人の気持ちが少しわかるようになった
・イメージがわきやすく、準備すべきことが見えてくるツールだと思う

<今後の活用について>

・地域に持ち帰ってやってみたい
・行政職員や教員にもやってほしい、避難所運営を担当する行政職員のために有効なゲームだと思う

 これらは、代表的な感想ですが、インターネットで「避難所HUG」で検索すると、たくさんの実施例がヒットするので、ぜひ検索してみていただきたいと思います。

<震災でも効果> 
 
 「体が自然に動いた」「落ち着いて行動できた」―。東日本大震災では、HUGを事前に取り入れていた仙台市で効果を発揮しました。太白区の児童館では避難所の指定がなかったにもかかわらず、HUGで受付の重要性を認識していた職員が、駆け込んでくる避難者の出入りを記録。妊婦やお年寄り、ペット連れなど状況に応じた部屋割りを進めることが出来たとのことです。震災以降も、各地でHUGを使った訓練が行われ、避難所運営を見直すツールとなっています。



▽避難所に女性の視点を


 震災の教訓として、改めて避難所運営への女性の参画の重要性が問われています。これまでもゲームの実施にあたっては、女性と男性では発想が異なること、避難所運営は生活に関係することが多く女性の力がものを言うこと、何よりゲームがより楽しくなることなどから、女性の参加をお願いしてきましたが、今後はさらに女性の参加を促していく必要があると感じています。

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女性の参加促進

 また、東日本大震災の時の災害時要援護者の避難の実態として、避難所に行ったものの健常者が良い場所を取ってしまっていたので仕方なく半壊の自宅に帰った、トイレや生活に必要な補助具が心配で最初から避難所に行くつもりはなかった、避難所に行ってみたがつらい想いをした、避難所を転々としたといった事例もあります。

 避難所運営の一つの大きなテーマは、言うまでもなく災害時要援護者対策です。HUGには、身体に障がいを持つ人、精神的な問題を抱える人、外国人、震災孤児など様々な災害時要援護者が登場します。体験会ではほぼ100パーセントの割合で、こうした人々に教室など別室を用意し、介護ができる避難者には災害時要援護者のケアをお願いするなどきめ細い配慮ができていました。

 このようにゲームの模擬体験の中では災害時要援護者をケアすることはできているので、今後できるだけ多くの住民や自治体職員の方にゲームを体験していただき本番に備えることが大切だと感じています。




<筆者略歴>

倉野 康彦(くらの・やすひこ

1978年度 静岡県入庁
2002年度から2004年度 土木部の地震防災対策を担当
2005年度から現在 危機管理部にて危機管理、防災行政を担当
2007年度 避難所HUG開発
2009年度 消防庁の図上型防災訓練マニュアル研究会にオブザーバーとして参加し、HUG水害版を試作・実施
2012年度 消防科学総合センターの風水害図上訓練の教材作成に関する検討会にオブザーバーとして参加
仙台市の防災ゲームづくりプロジェクトにアドバイザーとして参加

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