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金野幸雄(きんの・ゆきお) 1955年徳島県生まれ。東京大学工学部土木工学科卒。兵庫県職員、篠山市副市長を経て2011年4月から流通科学大学特任教授。専門は都市計画、国土計画、公共政策など。また、一般社団法人ノオト代表として、兵庫県篠山市を拠点に、古民家の再生、農村地域の再生に取り組んでいる。

金野幸雄(きんの・ゆきお) 1955年徳島県生まれ。東京大学工学部土木工学科卒。兵庫県職員、篠山市副市長を経て2011年4月から流通科学大学特任教授。専門は都市計画、国土計画、公共政策など。また、一般社団法人ノオト代表として、兵庫県篠山市を拠点に、古民家の再生、農村地域の再生に取り組んでいる。

空き家活用と地域再生 一般社団法人ノオト代表理事 金野幸雄

2013/04/16/ 07:00

 古民家再生による地域活性化は日本各地で行われているが、地域や物件によって抱える課題は異なる。一般社団法人ノオトは兵庫県篠山市を中心に空き家再生・活用を45件手がけてきた。代表理事の金野幸雄さん(流通科学大学特任教授)にこれまで蓄積したノウハウを寄稿してもらった。

◇    ◇


 平成20年に総務省が行った「住宅・土地統計調査」では、全国の総住宅数5,759万戸のうち空き家は757万戸。実に既存ストックの13%が空き家なのである。また、都道府県別の空き家率は10.3%~20.3%の間にあり、空き家の増加が全国的な問題であることが分かる。それでも我が国の住宅政策は見直されることなく、産業政策、経済対策として新規住宅の建設が進められている。空き家は今後も増加を続けるだろう。

 空き家問題には2種類ある。ひとつは、雑草の繁茂、倒壊、無断侵入、放火など環境面や治安面を心配する「管理問題」。これについては、現在、全国各地の自治体において、解体撤去の勧告や行政代執行を可能とする条例制定が盛んである。もうひとつは、空き家を地域資源と捉えてまちづくりに活かす「活用問題」。これについては、全国各地の自治体において、空き家を移住者等に斡旋する空き家バンク制度の創設が盛んになっている。


 ところで、工業化社会、資本主義社会とこれに続くグローバル社会は、核家族化、アトム化(人の孤立化)によって自らの市場を拡大する社会経済システムである。電化製品も自動車も住宅もそのようにして需要を伸ばしてきた。人口減少局面になってもこの流れは止まっておらず、引き続き世帯数は増加を続けている。家族は細分化し、世代間は分断する。子供は親と別の家に住むのである。

 かくして住宅は、30年(せいぜい1世代)を耐用する単なる消費材となった。消費材の住宅は一般に所有者が明確である。耐用年数を使用して、その後に解体撤去することが想定されている。だから、空き家はあっても空き家問題はない。管理問題も活用問題も発生しない(と、ここでは決めつけておくことにする)。


 結局、空き家問題が発生するのは、数世代に渡って暮らし継ぐことを前提とした伝統的な住宅である。その大半は戦前に建てられた住宅である。文化財的な価値のグレードは様々ではあるが、要するに「古民家」である。古民家は、その老朽化や地域の過疎化に伴って空き家となり、複雑に入り組んだ事情によって放置され、管理問題や活用問題が発生する。

 老朽空き家の倒壊や瓦落下などの危険性、地震時の倒壊による道路閉鎖などを危惧して、この度国土交通省は空き家解体の補助制度を創設するらしい。「管理問題」への対応ということになる。建物が解体されて更地となると、住宅用地としての優遇措置が外れて固定資産税が数倍になるため、土地売却のインセンティブが高まり、住宅用地の流動化が進むと考えられる。補助金で建物を解体し、土地は売却する。そのように考える人が増え、そのような不動産ビジネスが展開されることになるだろう。


 さて「活用問題」である。空き家の活用問題は、管理問題と全く立ち位置が異なる。有害なストックの解体撤去を促進するという観点ではなく、有用なストックとして再生活用するという眼差しを向ける。私たちは、この再生活用の方法が、少子化対策、農業の振興、森林の再生、ツーリズム振興などの面から地域再生に大きな意義と可能性を持つと考えている。本稿では、この「活用問題」を扱っていきたい。

 私が代表を務める一般社団法人ノオト(NOTE)では、篠山市からの委託を受けて、空き家調査、空き家バンクの設置、定住移住支援窓口「篠山暮らし案内所」の運営などに関わっている。また、自主事業として、この4年間で主屋、離れ、蔵など計45棟の空き家改修、26店舗の事業者マッチング(工事中、計画中のものを含む)などに関わってきた。

*ノオト等が支援した空き家活用事業 
NOTE古民家再生一覧.pdf


 まず、私たちは、これまでの活動から、空き家バンク制度による定住移住支援には限界があることを実感している。登録件数が伸びない。良質な物件がバンクにはほとんど登録されないのである。

 このため、後述する地域再生手法を用いて空き家の流動化と活用に取り組んできた。そして、その空間の持つ豊かさを引き出すことができれば、農山村においても空き家物件には充分なニーズがあることを実感している。田舎暮らし希望者はもとより、カフェ、レストラン、宿泊施設、物販等の店舗を開業したい事業者やその顧客に人気が高いのである。とりわけ、地域で新しく事を成すクリエイティブな人材の誘致につながっている。まず、いくつかの事例を紹介したい。


古民家の宿「集落丸山」

 黒岡川の谷奥に位置し、全12戸のうち7戸が空き家となっていた限界集落。うち3戸をリノベーションして2009年10月に宿泊施設としてオープンした。残る5世帯19人の村人がNPOを設立して運営。集落内にあった蕎麦懐石の名店「ろあん松田」、新しく開業した里山フレンチ「ひわの蔵」が食事を提供するオーベルジュとなっている。様々な里山体験プログラムも楽しめる。
 HP: http://maruyama-v.jp/

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篠山ギャラリーKITA'S

 プロダクトデザイナー喜多俊之氏の工芸ギャラリー&カフェ。篠山城下町で2010年3月にオープン。同氏がデザインを通じて支援する日本の伝統工芸作家の作品を展示・販売している。2ヶ月に1回、同氏が主催する工芸セミナー&ワインパーティが開催され、地域内外のクリエイターや文化人が集う交流の場にもなっている。
 HP: http://www.sasayama-kitas.jp/

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ささらい

 庄屋をリノベーションした複合施設。日置地区(旧城東町)の旧市街で2011年4月にオープン。主屋には、「芦屋ぷりん とあっせ」「里山旬菜料理ささらい」が、3つの蔵には「ひよこ文庫」「日置パン」「mokono自然素材の服と手しごと」の各店が開業している。交流イベントや音楽会も催される。
 HP: http://sasarai.com/index.html

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里山セミナーハウス「天空農園」

 山間に立地する築270年の茅葺き民家をリノベーションしたセミナーハウス。株式会社ぐるなびの協賛で実現した。周辺には、米、黒豆、野菜、栗、茶、山椒などを栽培する小嶋農園が拡がり、モリアオガエル、アカハライモリなどの貴重種も生息している。企業や大学の研修や体験合宿などに利用されている。
 HP: http://www.sky-farm-field.jp/

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就農シェアハウス「小多田の家」

 小多田生産組合が就農希望者を受け入れるための滞在施設。集落内の空き農家をリノベーションして2013年4月にオープンした。屋根に葺いたトタンを外して茅葺き屋根に戻すことで往時の田園風景を再現。茅場の再生、屋根の手入れ、茅のリサイクルなどを通じて「農」の暮らしと心構えが体感できる設えとしている。

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 このような活動を通じて、私たち自身が学習し、蓄積してきた空き家活用のノウハウをこの機会に記しておきたい。ただ、まちづくりにおいては一般に、成功例の事業スキームをそのまま他の地域に移転、移植することはできない。事業スキームは、その地域の資源(リソース)や人(プレイヤー)に依存するため、ひとつひとつが応用問題であり、手作りの作品なのだ。このため、ノウハウは部品に分けて提供したい。


1)低コストの改修

 一般に古民家再生は高コストの贅沢品であると考えられているが、これは誤解だ。「建て替えた方が安い」と勧める工務店は、安易な利益を求めているのである。工費や工期も計算できるので都合が良い。一方、古民家は、柱の根腐れ、壁や屋根の傷みなどが着工後に判明することもあり、その都度工事内容の変更や施主との調整が発生する。面倒である。これが工務店が新築を勧める理由である。

 建物の状態にもよるが、古民家再生工事は案外安価である(建て替えた方が高い)。また、古い壁をそのまま残す、使える瓦は再利用するなど「風合いを重んじる工法」とすることでコストはさらに下がる。私たちの実績では、坪単価30万円前後である。

 さらに、使用目的に公共性があれば補助金の導入も可能である。寄付金も集まる可能性がある。ボランティアの力を借りることでコストを大幅に下げる手法もある。


2)空き家の流動化

 多くの古民家が空き家となってそのまま放置され、傷み、解体されていく現実がある。農山村では空き家は流動化しない。空いていても貸したり売ったりしないのだ。

 その理由は、変な人が入居すると地域コミュニティに迷惑がかかる、あの家はお金に困っていると詮索される、この2点である。ひと言で言うと世間体。コミュニティへの配慮と言い換えても良い(何れにしてもコミュニティが健在であることの証しであり、都市部では考えられない理由である)。

 このため、その空き家をどのような目的で誰が使用するのか、地域活性化にどのように貢献するかという情報が地域コミュニティに共有されることが重要となる。説明会やワークショップを経て、こうしたまちづくりの方向性が共有されることになると上述の2つの理由が消えるからである。私たちはこの手法で空き家を流動化している。

 さらに、流動化を阻む要因として、仏壇が残っている、荷物が片付いていない、盆と正月だけ使いたい、といった理由が多く挙げられるが、これらは小さな問題であり、創意工夫で解消が可能である。


3)サブリース

 そのまま使用できる古民家は少なく、一般に相応の改修が必要となる。公共下水道への接続や合併浄化槽の設置が必要な物件も多い。つまりは投資が必要となる。所有者は一般に改修工事に不慣れであるし、投資などは想定外である。

 私たちは、こうした物件を10年間無償で借り上げ(固定資産税相当額を負担)、資金を投下して改修し、これを事業者にサブリース(又貸し)し、10年間の家賃収入で資金回収する、という手法を採用している。所有者にとっても、固定資産税の負担がなくなる、草刈り・修繕等のメンテナンスの心配が不要となる、10年後には再生された物件が戻ってくる、というメリットがある。

 結局、私たちは古民家を10年先の未来に継承するだけの仕事をしていることになる。けれども、その空き家が10年間活用されることによる地域内の交流、地域間の交流の成果が地域に付加される。若者の転入、耕作放棄地の活用、里山の再生、6次産業化、内発型産業の創出、祭の再生などである。

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4)中間支援

 集落や小学校区などの地域コミュニティが、空き家を活用して地域の夢を実現しようとする場合、一般にその小さなコミュニティのなかだけでは、その夢を実現するためのリソースやプレイヤーを調達できない。これを補うのが中間支援組織の役割だ。建築士、デザイナー等の専門家派遣、上述のサブリースと事業者マッチング、資金調達など支援というより事業パートナーと考えた方がよいだろう。

 実は、NOTEはそのようなビークルとして設計した中間支援組織である。サブリース期間の10年間を事業パートナーとして並走することで地域コミュニティが活力を取り戻してほしいと考えている。

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 空き家となった古民家をその土地に根ざした食文化や生活文化とともに再生すること。職人の技術と先人の魂を継承すること。伝統的な住宅や暮らしに光を当てることは、日本社会に宿っている日常の豊かさの再発見につながる。それは、核家族化・アトム化・コミュニティ解体と引き換えにこの国が追い求めてきた「豊かさ」とは別の懐かしくて新しい「豊かさ」である。

 日本社会に大きな制度や政策の網を被せても地域は元気にはなっていかない。そうではなくて細部から始めること。空き家とともにミクロなコミュニティ圏域を再生すること。それを集合し、あるいはネットワークしていくこと......その先に日本社会の豊かな未来が描けるのではないか。私たちはそのように夢想し、考えを巡らしている。

一般社団法人ノオト HP: http://plus-note.jp/

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